後方支援の地・下有住で育成、防潮林用クロマツやアカマツ

▲ 松くい虫への抵抗性を持つ苗をコンテナで育成=下有住

きょう震災5年10カ月

 

 東日本大震災の発生から、きょうで5年10カ月。気仙沿岸の被災地では防潮堤整備が終盤に入る中、内陸部に位置する住田町下有住地区では、海岸部の防潮林や保安林整備に向けたクロマツ、アカマツの苗育成が進められている。松くい虫への抵抗性を持ち、高田松原などで本格的な植栽を控える。生産関係者は、防潮林現場の整備スケジュールに成長を合わせなければならないといった難しさに向き合いながらも、未来の景観を担う若苗に早期復興の思いを託す。

 

植栽待つコンテナ苗

 

 下有住で海岸防潮林用のマツ苗を育てているのは、吉田樹苗(吉田正平代表)とイマノ樹苗(今野俊朗代表)。このうち吉田樹苗では現在、クロマツとアカマツの苗計約5万本を育てている。
 震災で壊滅的な被害を受け、県内各地で復旧整備が進められる防潮林、保安林では、約18万本のアカマツやクロマツが必要とされる。震災翌年の平成24年度に、松くい虫への抵抗性がある種を持つ県から委託を受け、コンテナでの育成を始めた。
 コンテナによる苗は、農地に限定されず効率的に育成できるほか、通年で植栽できるといったメリットがある。震災前から再造林などで用いられるスギ、カラマツの苗を育てていたノウハウがあった。現在、ピーク時には総計約50万本の苗を育てるうち、約半分がコンテナ苗という。
 アカマツやクロマツは、再造林用の需要はない。スギなどと比較し、育成方法に大きな違いはないが、砂地でも培地を少しでも多く確保できるよう、スギなどよりも2倍の〝くぼみ〟がある1本分300㍉㍑のコンテナを使用する。
 再造林用の品種とは異なり、特に育成管理に注意を払う。種の状態から植栽までには2、3年を要する。吉田代表(59)は「スギやカラマツは、いかにして早く育てるかを考える。マツはいつ植栽するかで、育て方が違う。今年からは結構動くと思うが、成長を管理して、タイミングを合わせるのが難しい」と語る。
 海岸部の工事で遅れが生じれば、処分しなければならない。抵抗性があるクロマツの種は限られているといい、日々難しい判断に迫られながらも育成を続けてきた。
 数年前から久慈や宮古、大槌などでの海岸防潮林向けに、育てたマツ苗を出している。今年以降は高田松原や大船渡市内の各海岸など、気仙での植栽本格化を控える。
 高田松原では、復旧中の気仙川水門との接続部分を除いた堤体工事が完了。約2000㍍にわたり、海側には海面高3㍍の第一線堤、山側には同12・5㍍の第二線堤が設けられた。第一線堤と第二線堤の間に防潮林としてマツの植栽が行われる。
 下有住には、町が独自で整備した木造仮設住宅団地があり、今も陸前高田で被災した住民らが住田町民と交流を深めながら生活を送る。高田松原の白砂青松の再生を図るマツ苗も、後方支援の地であり続けてきた下有住で静かに植栽の時を待つ。
 吉田代表は「どの植栽地でも、自らが育てた苗に対する思い入れの強さは変わらない」という。ただ、高田松原は自身も海水浴や高校野球合宿など多くの思い出がある。
 冬の寒さにも耐えて成長を続けるマツ苗を前に、「商売を考えれば、スギやカラマツを育てた方が収益はいい。ただ、被災した海岸林でもうける必要はない。国や県にも、協力していきたい」とも話し、早期の復旧・復興を見据え力を込める。