新春インタビュー/2017挑む!!気仙人② NPO法人wiz代表理事 中野圭さん(30)
平成29年1月18日付 1面

岩手に戻る〝フック〟残す
──中野さんは大船渡市三陸町越喜来出身。震災の年の1月、東京で国産建築用木材の流通促進にかかわるサイトの運営会社を設立したが、発災後すぐに大船渡にUターンした。
中野 実家が心配で、東京と大船渡を行ったり来たりする生活が続いた。その中で、「地元に拠点を移した方が、復興のためにできることが何倍もある」というのを実感したことが、古里に帰る動機となった。
──平成26年4月、東日本大震災後に本県へUターンした若手とともに、NPO法人wiz(ウィズ)を設立した。活動の目的は。
中野 震災後、岩手出身の人や関東関西からの支援関係者など、「被災地のために何かをしたい」という人たちの間でネットワークができた。自分もその中の一人で、「このつながりを〝震災バブル〟のような単発なものにせず、持続的なものにしたい」という思いから、ウィズは生まれた。
若い人が岩手に入って活動し、活躍や地域貢献という結果を残す。それを将来、私たちがいなくなっても継続的に循環させる──そうした〝仕組み〟づくりを行っている。
──NPO設立後に行ったことは。
中野 U・Iターン者が何か行動を起こそうとしたとき、妨げになるのが「方法がわからない」「一人だと恥ずかしい」という気持ち。ウィズではそういった人たちが一歩前進できるよう、「勉強会」と「交流会」を開催することから始めた。
勉強会は、他県で実際に自分の事業を立ち上げ実績をあげている人たちを講師に招き、目標へのステップや手順の知識を得られる場にしている。交流会は、参加者だけでなくウィズのメンバーも含め、同じ思いをもった仲間がたくさんいるということを認識する場になっている。
──地域の復興が進む中、岩手発のクラウドファンディングサイト「いしわり」の立ち上げなど、活動内容に変化が見られる。
中野 先に話した〝仕組み〟をつくるためには、岩手の中だけの閉じた活動だけではだめだという思いがあった。
県外の岩手県出身者や、岩手とゆかりがある人たちが岩手を応援できる〝プラットフォーム〟として生まれたのが「いしわり」。このサイトは、「地域を良くしたい」という人が考案したプロジェクトを公開し、資金面での協力者を募るというもので、実績も上がりつつある。
いしわり以外の事業として取り組んでいるのは、学生が岩手の企業経営者とともに地域課題の解決と新規事業に挑む、インターンシップのコーディネートと、首都圏のU・Iターン希望者のコミュニティー構築や、地域おこし協力隊の採用・活動支援など。
これからは就職あっせん事業や、商品開発などを図る事業など、活動規模の拡大を図っていく。Uターン促進のため、Uターン希望者をウィズで雇用できるような環境も整え、岩手での働き口を増やしていければ。
──NPOの活動以外にも、大船渡青年会議所の専務理事や、震災後の越喜来で毎年開かれる花火イベント「オキライ・サマー」の実行委員長を務めるなど、多方面から地域の活性化にアプローチしている。今後の抱負を。
中野 元気な地域というのは、結果的に子どもたちが多い地域のことだと思っている。
自分も3人の子どもがいるが、いつかは大船渡を出る時が来ると思うし、そのこと自体はいいことだと思う。ただし、この場所を離れる前に、古里の魅力や、都市部に行かなくても地元でやれることがたくさんあるという可能性に気づかせることが必要。
いずれ岩手へと戻るきっかけ──〝フック〟のようなものを若者の心に残したい。それは、ウィズのインターンシップの事業などに参加する人たちへ伝えたいことと一致する。
さまざまな活動を通じ、今あるものを生かしながら、お金も人も回る地域づくりを目指していきたい。
(聞き手・阿部仁志)