新春インタビュー2017挑む!!気仙人⑨森下水産㈱取締役本部長・森下航生さん(40)

海の恵みと誇り発信を

 

 ──大津波では大船渡市盛町の本社工場などが壊滅的ダメージを受けたにもかかわらず、わずか4カ月で再開を果たした。被災から6年を迎えようとするいま、当時を振り返っての気持ちは。
 森下 平成23年の1月に営業冷蔵庫、翌2月には第2工場を取得し、これからの成長を探る節目の年になると意気込んでいたところで、予期せぬ被災だった。
 3月は水揚げが少ない時期で、どこの加工会社も冬までに仕入れストックした原料で対応する。わが社も例に漏れず原料ストックがピークの時期。まだ先が見えない中、溶けてにおいもきつくなった原料を片付けていて頭に浮かんだのは、〝敗戦処理〟ってこういうことなのかと。前向きにはなれなかった。
 片付けを続けるうち、金融機関や取り引き先の理解と協力もあって活路が見えた。大船渡はサンマのまち。秋の水揚げまでに再開を間に合わせ、いくらかでも震災のダメージ払拭に貢献したいと考えられるようになった。
 工場が稼働したのは7月。その初日、女性従業員の皆さんが和気あいあいと働く震災前と変わらない姿を見て、ほっとしたり喜んだりすると同時に、当たり前の光景のありがたさを感じさせられた。
 ──27年2月には大船渡町に新たに第3食品工場が完成。販路開拓にも積極的に取り組んでいる。
 森下 第3工場建設の際、基礎杭が打たれるのを見て、この場所で、大船渡で、またやっていくんだと、改めて覚悟した。
 新工場は魚を加温後に炭火で焼き上げるという、機械メーカーと開発した独自の製造ラインが特徴。
 大船渡水揚げのサンマを主に手がけており、大手コンビニのプライベートブランド商品としても、東北と北海道、首都圏から始まり、いまは全国へと広がっている。
 こうした動きを通じて、大船渡の海の幸のよさを広めていくことができれば。全国津々浦々の出身者が商品に大船渡の文字を見つけ、ほっこりするような場面もあればうれしい。
 ──再開後は大学などと連携した新商品開発も盛んだ。
 森下 相模女子大学(神奈川県)復興支援学生ボランティア委員会の皆さんの応援で、イメージキャラクター「モリーくん」が生まれ、「モリーくんプロジェクト」として海鮮キッシュの開発や販売に向けた活動などを繰り広げてきた。
 また、昨年は新商品で、大船渡産のサケを使ったスプレッド「モリーくんのふわっとろサーもん」を開発した。
 業務用に特化してきたので、一般消費者向け商品としてはこれが第1号。復興庁の支援事業採択を受け、消費者向けのマーケティングから取り組み、味は盛岡市の料理研究家・小野寺惠さんに監修していただいた。
 サケ本来の味を生かしながら、クリームチーズやはちみつを加えることで、くせなく楽しむことができる。パンに合い、盛町のル・トレフルさんや盛岡のカワトクさんで取り扱っていただいており、大船渡や岩手の子どもたちにも味わってもらい、魚のおいしさを感じてほしい。
 ──今後の抱負を。
 森下 一般消費者向けの商品開発は、復興支援でいらした方々から、わが社の商品がほしいと言われたのがきっかけになった。これからも食卓に直接届く商品づくりに挑戦し、全国の方々からいただいた声を反映させ、よりよいものをつくっていきたい。
 大船渡の漁業は海面養殖に従事している方々が非常に多い。その中でも主力で品質がよいカキやホタテ、ホヤを原料とした商品を生み出したいと描いている。
 森下水産のスローガンは「大船渡から世界に向けて」。食材に恵まれているのが大船渡、気仙、三陸の海の強みであり誇り。生産者のこだわりや思いも一緒に発信し、漁業にも加工業にも地域にも、お金だけではない豊かさが広がっていく。そんな大きな夢も胸にして進んでいきたい。
 (聞き手・千葉雅弘)=おわり=