記憶と足跡 将来の減災に、「住田町の後方支援」/多田町長が出版

▲ 気仙の書店では先行的に販売が始まった「住田町の後方支援」

 東日本大震災以降、住田町はどう動き、気仙両市の復旧・復興を支えてきたのか──。多田欣一町長(71)による著書「東日本大震災 住田町の後方支援」(はる書房)が出版された。町長や役場職員、住民らの記憶をつなぎ、迅速に行われた住民の安否確認、炊き出し支援や物資確保、独自の木造仮設住宅建設に至った足跡をまとめた。未曾有の大災害に直面した混乱や失敗談も赤裸々に明かし、今後の防災・減災につながる教訓を伝えている。

 

〝未曾有の対応〟つづる

 

 本書は▽震災発生▽後方支援▽仮設住宅▽震災教訓──の4章構成。震災発生では、平成23年3月11日午後2時46分に大きな揺れに襲われた直後、職員が恐怖におびえながら災害対策本部を立ち上げた動きや、高齢者の安否確認を急いだ足跡が記されている。
 後方支援では、壊滅的と称された陸前高田に届ける物資確保の苦労や消防団の活動、炊き出しの動きなどを記載。仮設住宅では、課題山積の中で建設を実現させた取り組みをまとめ、震災教訓では支援団体との連携の重要性などに迫っている。
 構想から発刊まで、約2年を要した。多田町長は「これだけの災害であり、町も記録として残すべきだったが、職員の数が少なく、突発的な震災だったため難しかった。しかし、記憶は残さなければいけない」と、経緯を振り返る。出版には本紙・東海新報の元記者である木下繁喜氏(63)が協力した。
 住田町は全国的に「木造仮設住宅を独自でつくった町」として知られる。一方で「そこが目立ってしまうが、まず足元の住民安否を確認し、災害弱者の安全をいち早く守ることができたのが大きかった」と多田町長。発災直後、酸素ボンベや透析が必要な住民に対応した町や社協職員の行動に光を当てた。さらに町長らが震災前から木造仮設の必要性を訴え、町内で検討していた動きも振り返った。
 町や社協の職員は、当時の役職とともに実名で紹介。一分一秒を争う臨場感や、それぞれがどのような不安を抱え、手探りで奔走したのかを忠実に表現した。成功談だけでなく役場内にあったポータブルラジオが電池切れで動かなかった、防災行政無線が使えなかった、炊き出しのおにぎりが〝あめて〟しまったなど、失敗談も赤裸々につづった。
 未曾有の被災規模を前に、時には一般的な行政ルールから外れても即断即決に迫られたのは、気仙両市だけでなく後方支援の地である住田町も同じだった。当時の苦悩や決断を残すことで、想定される南海トラフ地震などの備えに生かされてほしいとの願いが込められている。多田町長は「教訓で参考になるのは、実は失敗談。どんな混乱や失敗があったかも分かっていただきたい」と語る。
 同書は四六判381㌻。価格は1500円(税別)。気仙の書店で先行的に販売が始まっており、盛岡など全国の書店でも購入可能。大手通販サイト「Amazon」でも予約を受け付けている。
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