災害公営「栃ケ沢アパート」で今月中にも運営開始、愛育会のグループホーム/陸前高田

▲ 愛育会によるグループホームの運営が始まる災害公営住宅「県営栃ケ沢アパート」=高田町

 陸前高田市の社会福祉法人・愛育会は、同市高田町に整備された災害公営住宅「県営栃ケ沢アパート」で、今月中にも障害者が共同で生活を送るグループホームの運営を始める。これまで同町の「みなし仮設」などで生活してきた被災者11人が引っ越す予定。利用者の利便性向上につながる移転を喜ぶ同法人は今後、被災していない障害者も利用できるよう、整備・管理側の県に入居資格の緩和を求めていく考えだ。

 

 関係者喜びと不安

 

 災害公営住宅としては県内最大の同アパート。建物2棟が整備され、戸数は301戸。昨年8月から入居が始まり、現在約220世帯が入居している。
 同法人の利用が決まっているのは、1、2号棟合わせて7部屋。同法人のグループホーム5カ所のうち、高田町内の「みなし仮設」で運営している2カ所、住田町1カ所の計11人が利用する。
 県からすでに鍵は引き渡されており、10日ごろには、ベッドをはじめ設備を整える。その後引っ越しを済ませ、生活を始める予定だ。
 同法人のグループホームは高田町内に6カ所あったが、震災ですべて全壊。その1カ月後の4月に開所を控えていた7カ所目の施設も津波に流された。
 当時のグループホーム利用者は全部合わせて28人。住まいを失い、7人が自宅のある内陸部に戻った。残る利用者は、高台にある同法人の他施設に一時避難し、震災2カ月後の5月には、20人が同町中田の集合住宅(みなし仮設)に入居した。
 みなし仮設では1~5階までの計6部屋を使い、現在は10人が2グループに分かれて生活。車いすを使う利用者はいないが、エレベーターはなく、階段の上り下りは大きな負担となっているという。コンビニエンスストアやスーパーからも離れており、メーンの移動手段が徒歩の利用者にとって「買い物が不便」という声が聞かれるという。
 利便性の改善を求め、当初は利用者個々に災害公営住宅への入居申請を検討したが、住居がバラバラになり、ケアの低下や、震災後不足状態が続く職員の負担増が懸念された。同法人は一昨年4月、共同で生活ができるよう、法人としての入居を県に要請。県は、前例のないケースだったため、国と調整しながら慎重に検討してきた。
 栃ケ沢アパートはそばにコンビニがあり、警察、消防、市役所など公共施設もある。法人関係者は「利便性は格段に上がる。本当にありがたい」と、対応した県に感謝する。
 一方、移転による懸念材料もある。同じ環境で暮らす住民に理解を求める必要があるが、同アパートの自治会は、入居世帯数が多いことから、まだ設立には至っておらず、全体へ知らせる効率的な手段がない。自動火災報知器など運営上不可欠な設備は整っているものの、有事の際の対応も検討しなければならない。
 同法人には現在、被災していない障害者からのグループホーム利用申し込みが少なくとも1件あるが、他の施設はすでに定員に達している。同法人によると、栃ケ沢アパートは「部屋数から考えれば、入れる余地がある」という。
 ただ、災害公営住宅はあくまで津波で自宅を失うなどした被災者の住まいの再建のために整備されたもの。同市では今なお2000人以上が仮設住宅・みなし仮設で暮らしている中、条件に該当しない人を入居可とするといった方針の転換には、より慎重な検討が必要といえそうだ。
 同法人役員の菅野正明さん(59)は「春になれば利用申し込みがさらに増えることが想定されるが、お断りしないといけない。仮設住宅で暮らしている被災者がたくさんいる市内の事情は百も承知だが、受け皿を求める障害者の要望に応えるためにも、入居資格を緩和してもらえるよう呼びかけたい」と語る。