視点/まち全体のデザインを、住田町世田米・昭和橋の架け替え前倒し

 住田町世田米の気仙川に架かる昭和橋。文字通り昭和期から80年以上にわたって両岸を行き交う人々の移動を支えている中、治水対策に伴う架け替えが当初計画よりも前倒しして実施される見通しとなった。橋脚の間隔を広げ、橋の高さを上げるといった安全性だけでなく、交通環境の充実や古き良き建造物を生かしたまちづくりにも向き合わなければならない。将来を見据えたまち全体を描くデザインと、幅広い視点をふまえた合意形成が求められる。(佐藤 壮)

 

交通環境、歴史的景観の活用…

 

 昭和橋は昭和8年に架設。世田米商店街と、役場や農林会館など公共施設が集積する両岸を結ぶ。橋の長さは72・9㍍で、交通可能な道幅は3・2㍍と決して大きくはないが、町中心部に位置するとあって通行量は少なくない。
 一方で、車両がすれ違うことができず、渡り終えるまで待ち続ける光景もよく見られる。また、登下校の小中学生や近隣で開設されるよりあいカフェ、まち家世田米駅の各利用者が行き交う姿も多く「歩き渡る橋」としての利用も目立つ。
 さらに、橋の近くには蔵並みがある。最近は「まち歩き」「景観まちづくり」を進めるうえで、橋も重要な文化的資源の一つとなっている。
 県は津付ダム整備に代わる河川改修中心の新たな治水対策を進めている。まずは護岸改修や河道掘削に着手し、昭和橋の架け替えは当初、36年度からの着手計画だった。しかし県は早ければ29年度から調査・設計に入るとし、先月25、26の両日に説明会を開いた。
 前倒しの背景には、昨年夏に岩泉町などで甚大な被害をもたらした台風10号の教訓がある。町内を流れる川には昭和橋と同じ構造の橋脚があり、上流部からの流木などが詰まることで川の水がせき止められ、周辺部の浸水被害拡大につながったとされる。
 昭和橋を現位置で架け替える場合、橋脚は現在の7本から1本とし、橋台と橋脚の間隔を確保。橋げたも現状より2㍍程度高くするという。
 説明会では、複数の住民から「車のすれ違いができるように」「子どもも渡るので、歩道を」との声が出た。ただ、架け替えに合わせた「グレードアップ」には、課題がある。
 県大船渡土木センター住田整備事務所によると、接続道路の幅員が狭く、現位置では現橋よりも広くすることができない。新橋に2車線、歩道を求めるならば、別の場所に設ける必要がある。
 現位置、現道幅での架け替え整備に要する事業費の概算は約4億7000万円で、県側が負担する。幅員を広げた橋の整備には、用地確保に加え町も整備費を負担しなければならない。
 拡幅に関しては、住民から近隣に整備される消防分署からの迅速な救急出動を強調する発言もあった。また、議会では以前から、役場前にバス停留所がない不便さが話題に上る。商店街や役場周辺のネットワーク充実を願う意見には、根強いものがある。
 一方で交通安全を考えるならば、あえて橋が持つ機能を限定し、歩行者が歩きやすい環境を守る方向性も挙げられる。実際、役場や世田米小の周辺は来年度以降、面的に車両の最高速度を30㌔規制とする「ゾーン30」が導入される。

 説明会では、現位置で架け替える場合、橋の長さは従来よりも20㍍ほど短くなる構造になる見通しも示された。橋の部分だけ川幅が広くなっているといい、短縮分は護岸として整備される。
 昭和橋下部の川岸では、夏まつりには五葉山火縄銃鉄砲隊が蔵並みに向かって演武を繰り広げる。歴史的な街並みを生かした親水空間のあり方や、親子連れでにぎわう近隣のふれあい公園との連動性、歴史的建造物に調和した護岸構造にも関心を向けなければいけない。
 まち家世田米駅として活用されている旧菅野家は本年度、国の登録有形文化財(建造物)になることが決まり、地域全体の歴史的景観継承に向けて第一歩を踏み出した。古き良さを生かしたまちづくりや文化財保護の動きにも向き合う必要がある。
 町は平成23年度に中心地域活性化構想を、26年度に構想具現化を目的とした基本計画を策定。蔵並みや昭和橋を生かした景観整備など、役場周辺全体のまちづくり充実を目指す内容も盛り込んだ。
 今後について、住田整備事務所では町の整備費負担が伴う歩道付き2車線構造も含め、検討していく姿勢を示す。北村安所長は「地域住民の意向や町の施策などをふまえ、どこに橋を通せばいいかをまず決めることが大事」と語る。
 前倒し整備を前に、橋を管理する町にはスピード感も意識しながら合意形成を図ることが求められる。新たに意見を集めることも大事だが、これまで町内で行われてきた景観やまちづくりに関するワークショップ、研修会、住民議論の意見を振り返り、掘り起こすことも大切にすべきだ。
 住民が望むすべての理想を一つの新たな橋に落とし込むのは、非常に難しい。だからこそ、昭和橋周辺のまちづくりをどのような基本方針で進めるかをしっかり固めることが重要ではないか。まち全体の将来を描くデザイン力が問われているとも言える。