交流拠点の役割にも力点置く、求められる医療を提供/済生会陸前高田診療所が開所(動画、別写真あり)
平成29年2月16日付 1面

社会福祉法人恩賜財団済生会(本部・東京)が陸前高田市気仙町今泉地区に整備した済生会陸前高田診療所(伊東紘一所長)は15日、診療をスタートした。午後には所内の交流スペースでイベントも催され、利用者や地域住民ら約40人がお祝いに駆けつけた。伊東所長(76)と妻のカヅ子さん(70)は、同診療所を地域包括ケアの拠点としてだけでなく、「住民が集まり、活気を持てる場にしたい」という思いを持ち、スタッフとも力を合わせて運営に取り組んでいく。
医療の枠超えた場所に
開所日であるこの日は、午前で診察を終了。通常の待合室部分が「地域交流スペース」に早変わりした。午後からは明扇流「華の会」による踊りと、同市在住の木村洋平さんのギター演奏が披露され、訪れた人たちを楽しませた。
来場者の中には、今泉で被災した地区住民の姿も多数。伊東所長に「おめでとうございます」と駆け寄ったり、顔を合わせた人同士で「久しぶり」とあいさつを交わし合うなど、所内のそこかしこに笑顔と笑い声がはじけた。
現在は高田一中仮設に暮らし、同じ仮設の仲間と誘い合って見学に来たという千葉静子さん(85)は、「今泉に高台ができたらうちを建てて、また引っ越してくる。何もなくなった今泉にこういう病院ができて本当に良かった。交流の場として使えるというのもうれしい」と喜んだ。
同診療所は、平成27年10月から竹駒町の仮設施設で診療を開始。常陸大宮済生会病院(茨城県)院長でもあった伊東所長たっての希望もあり、済生会が開設に力を尽くした。その背後には、気仙町出身の妻・カヅ子さんの支えもあった。
カヅ子さんは、「医療を提供するだけがわれわれの仕事ではない。ここからまちづくりをしていってほしい」と語る伊東所長と思いを同じくし、同施設内に交流スペースや屋外デッキ、広場を設けることを提案。待合室を広く取り、窓を開ければデッキと一続きの空間として使えるようにしたり、イベントの際に調理もできるようキッチンも設置した。これらは地域住民も利用することができる。
「この町に活気が生まれることこそ、私たちの望むところ。震災でつらい思いをした人たちが心を開き、『助かってよかった』と思えるよう、ここで畑をつくったり、ニワトリ小屋から卵をとったり、そんな使い方をしてもらいたい」と伊東所長は語る。
同時に、「誰もが適切な診療を受けられるようでなくてはならない」という点も強調。仮設施設の時から行ってきた訪問診療を継続するとともに、無料低額診療(所得の低い人や、困難な立場に置かれている患者のため、医療費などの支払いの一部または全額を免除する社会福祉事業)も実施する。「本設ができたからといって、これですべていいわけじゃない。まだスタートラインに立っただけ」と所長は気を引き締める。
待合室で患者の話し相手となることも多いカヅ子さんは、「来年には小児科も開設される予定。クローバーが広がる外の広場は、子どもたちが走り回ったり、すべり台で遊んだりできる。ピアノも置いてコンサートも開きたい。そういう楽しい場面をたくさんつくり、皆さんに使っていただきたい」と話し、地域住民の笑顔と健康がここから生まれることを願った。
診療科目は、訪問診療のほか、内科・整形外科。診療時間は午前9時から午後5時まで(水・土曜は午後0時30分まで)。整形外科は金曜日のみで、日曜、祝日休診。問い合わせは同所(℡22・7515)へ。