視点/陸前高田市役所の新庁舎建設位置①

▲ 奥に12・5㍍の防潮堤。手前のかさ上げ地に中心市街地が形成される。4年前にはこの付近も庁舎建設候補地となった=高田町・本丸公園より

 陸前高田市が、市役所の新庁舎建設候補地4案を昨年11月に提示して以来、同市では候補地選定をめぐる議論が交わされている。市民の意見は「現庁舎位置」と「高田小跡地で新築」の二つに絞られた。市はどちらの案にするか、開会中の市議会定例会内で提案するものとみられ、早ければ発災から丸6年が経過する来月中旬にも結論が出される。(鈴木英里)

 

4年前の議論が再燃
「高台か、市街地のそばか」

 

 「高台か、中心市街地か」──およそ4年前に交わされたのと同じ議論が今回、〝再加熱〟する形となった。
 市は平成24年10月に住民説明会を開き、被災した市役所を再建する場所として「高田町荒町の土地を約8~10㍍盛土し建設する」と提案した。
 しかし「浸水域に役所を建てれば、悲劇が繰り返される」「遺族の思いが反映されていない」といった猛反発を受け、25年に庁舎位置に関する全戸アンケートを実施した経緯がある。
 この時に挙がった候補地は、①高田町荒町(本丸公園付近)②現高田小学校跡地③現庁舎位置④気仙町今泉地区──の4案。いずれも市有地か土地区画整理事業区域内にあって用地確保のめどが立ち、防潮堤整備やかさ上げによって「東日本大震災クラスの津波でも浸水しない」という前提によって示された場所だった。
 アンケートでは全8506世帯のうち、3823世帯から回答を得た。この中で、ともに高田町の浸水区域内である①と②を選択した人はそれぞれ31%、22%と少なくなかった。この2カ所は極めて近い位置にあることから、合わせて見れば「過半数を超えた」とも言える。
 「行政機能や商業地帯はできるだけ1カ所に集めてほしい」「まちの使い勝手が悪いと、地域が衰退する」など、賛成理由の大半が利便性を重視したものであり、「盛土や防潮堤工事が進めば、震災前とは状況が変わる」「避難意識を徹底させることが大事」と、多重防災を前提とした答えが多かった。
 一方、単独で最多の回答となったのは③で、全体の40%。さらに、市職員(正職員、嘱託・臨時、派遣職員)を対象に行った「高台」「市街地」のどちらを望むかという二者択一のアンケートでは、実に74・9%が「高台」と回答する結果になった。
 理由には「多くの職員が犠牲になったことや、市民感情を考えると適当」「災害時、交番や消防署と隣接していることが重要」などが挙げられ、具体的な位置としては、「現庁舎」を支持する意見が最多数となった。
 市は「市街地形成等の観点から見ると、現位置は十分な立地場所とは言い切れない」としながらも、このアンケート結果を重視し、「浸水区域外の高台に」という方針を示した。そのうえで、「被災者の住宅再建が最優先。市役所は一番後回しに」とし、庁舎位置の決定を保留してきたのだった。
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 32年度までの復興・創生期間終了が約3年後に迫った昨年末から、この重要課題が再び俎上に乗ることになった。
 新たに市が示した候補地は、①高田町の農免道沿い(場所は特定せず)②高田町鳴石の現市役所位置③高田小跡地での校舎改修④高田小跡地での新築(※市側は「案③の2」として示しているが、ここでは便宜上④とする)──の四つである。
 市民や市議からは、これらの案を直接住民に示す「説明会」開催を求める声も上がったが、繰り返される要請に戸羽太市長は「それでは〝声の大きい人〟の意見しか聞こえてこない。普段発言できずにいるような人の話も含め、広く聞きたい」と答弁。
 「議員の皆さんにも、それぞれの歩いている地域で声を拾ってきてほしい」と注文をつけ、あくまで3月議会で話し合うという姿勢を貫いた。
 市長は昨年12月から今月まで、28カ所で「語る会」を開催。幅広い年代・地域の住民と直接話す機会を設け、延べ800人を超える住民が参加した。25年に延べ12カ所で行った住民説明会の総参加者数は240人ほどだったことから、今回の手法は「多数の声を拾いたい」という目的にかなうものだったとみてよい。
 これまでの「語る会」の話を振り返ると、まず候補地のうち③案を推す声はなかった。市民から「高田小を改築すれば費用を抑えられるのでは」という意見があることを想定した案だったが、校舎の耐震補強工事費がかかるうえ、老朽化によるメンテナンス費用もかさむため、高田小跡地で新築する④案のほうが、市の負担も6億円ほど安くなるからだ。
 また、①の農免道沿いについても、場所の不便さ、冬季の周辺道路凍結、土砂災害警戒区域が近いといった懸案事項が多く、「農免道よりもっと下で、さらに浸水区域外である和野地区なら賛成」といった意見を除けば、支持者はごく少数。このほか、「米崎~小友のアップルロード沿いはどうか」など、四つの案以外の意見・要望も一部で聞かれた。
 現状で、市民の意見は案②と案④の二つに絞られ、市議会でも両案のメリット、デメリットに焦点を当てた議論が交わされた。