基幹産業通じ魅力発信、初のモニターツアー実施/大船渡(別写真あり)
平成29年2月26日付 1面

大船渡市で25日、首都圏在住者らを対象とした「お仕事ツーリズム『セメントが出来るまで』モニターツアー」が催された。国の地方創生推進交付金を活用し、来訪や移住の促進を図ろうと市が進める実証の一環で、同市における産業の柱の一つとなっているセメント生産をテーマとした。参加者たちは、市民であっても関係者以外は目にすることの少ない現場を巡りながら、大船渡への理解を深める機会とした。
交流・移住促進目指し
この取り組みは、市が岩手開発産業㈱(柳田英輝代表取締役社長)に委託して進める「お仕事ツーリズム・お試し移住実証業務」の一環。農林水産業体験や地場産業の見学ツアーなど、廉価で長期滞在可能な環境を整備することで、一般的な観光では体験できない地域への理解や人的交流を促し、交流人口増加や移住促進につなげようとの狙い。
モニターツアーは初の試みで、同社の観光部門を担う岩手開発観光が主催。同市出身の歌手・新沼謙治さんが代表取締役を務める㈱地域活性化総合研究所とともに企画を練ってきたもの。
市内外に参加を呼びかけ、この日は首都圏などから13人、市内から9人が参加。同市赤崎町の太平洋セメント㈱大船渡工場(日髙幸史郎工場長)を中心に、セメント生産の現場を巡るバスツアーに臨んだ。
一行は初めに、太平洋セメントグループとして主に原料採掘を手がける日頃市町の龍振鉱業㈱(橋本晃一代表取締役社長)に向かい、住田町世田米にある大船渡鉱山大平地区での石灰石採掘を見学。岩手開発鉄道で太平洋セメント大船渡工場に運搬されるまでの工程を実際に追った。
大船渡工場では職員の案内のもと、敷地内を見学した。昭和12年の操業開始以来、大船渡市とともに歩んできた同工場は、平成23年3月の東日本大震災津波で甚大な被害を受けたものの、震災がれき処理も担いながら同年11月には生産再開に至った。
参加者たちは、蒸気を上げながらゆっくりと回る直径約5・8㍍、長さ約120㍍の焼成炉、がれき受け入れに大きな役割を果たした除塩施設解体の様子などに見入り、今後のバイオマス発電計画にも興味深く耳を傾けていた。
25年度に同市への災害派遣職員として務め、現在も年に数回足を運んでいるという神奈川県鎌倉市の岡宏さん(56)は、「普段は見ることのできない大船渡の姿に触れられてよかった。働き手の多くが地元の方と聞いた。地元の基幹産業として皆で支えているのだと印象に残った」と話していた。
昼食を挟み、福祉現場で働く人たちとのワークショップも実施。夜には「ジビエ交流会」として日頃市町で地域住民と一緒にシカ肉料理に舌鼓を打った。26日は大船渡、陸前高田両市の復興状況視察を行う予定。
同ツアーは3月10~12日にも実施予定。ツアーの充実や定着化へ、参加者の声も集めることとしている。復興需要収束後の交流人口拡大の必要性が叫ばれる中、従前と視点を変えた〝ディープ〟な魅力発信の成果に注目が集まりそうだ。