市役所建設位置 当局は高田小案を示す、市議会定例会に議案提出/陸前高田

▲ 庁舎位置に関する条例改正案を提案した戸羽市長=陸前高田市役所

 陸前高田市議会定例会は6日、本会議が開かれ、市役所新庁舎の建設位置に係る追加議案が当局から提出された。戸羽太市長は「より多くの民意を反映したものであり、震災からの復興で一番に考えなくてはならないのは、持続可能なまちづくり」と述べ、現高田小学校位置での建設を提案した。同議案は14日(火)の本会議で採決が行われる。

 

「より多くの民意」と判断

 

 同日は予算等特別委員会に付託された執行前提案や補正予算案など計18件を原案可決。このあと市長が、市庁舎位置を現在の「高田町字鳴石42番地の5」から、高田小学校がある「高田町字下和野1番地」に改めるとする、「市役所庁舎位置設定条例の一部を改正する条例」案を提出した。
 同議案は予算等特別委員会に付託され、14日に採決が行われる見通し。庁舎の住所を変更する場合、地方自治法に基づく「特別多数議決」案件となることから、出席議員の3分の2以上の賛成をもって可決とする。
 本会議散会後に開催された予算等特別委員会では、議員が「市民を二分するデリケートな問題。テレビ報道等では『安全』か『にぎわいか』という偏った論立てになってしまっているが、もっといろんな角度から議論されるべきで、最終的には〝ノーサイド〟となる必要がある。市民が一丸となってまちをつくっていくうえで、市長は何が大事と考えるか」と問いかけた。
 市長は「過去にも、震災遺構を残すか否かや、一本松の保存等についても市民の意見は割れた。しかしこれまで乗り越えられてきたように、まず場所が決まれば『その中でまちづくりを進めていこう』という、皆さんの気概はあると思っている」とし、いずれの案になっても遺恨が残らないよう、建設的な議論が尽くされることを願った。
 同委員会の休憩時間中、記者団の取材に答えた戸羽市長は、高田小を提案した理由について「1000人近い方々と懇談を重ねてきた中、高田小への賛成が単純に最も多かった。現在地に造成すると、これまで説明してきたよりさらに土地が狭くなり、職員の駐車場がまったくとれないことも分かった。総合的に勘案し、高田小という選択肢が、ベスト(最良)ではないにしろベター(より良い)だと考えた」と説明した。
 高田小案については、交通といった利便性の面からの支持が、特に高齢者から大きかったことを挙げ、「子育て世代の方からも『津波の危険がゼロではないにしろ、まず便利であってほしい』『子どもたちが大きくなったとき、にぎわっていないまちでは復興させる意味がない』という意見が多かった」と補足。
 未来を見据えたうえでの選択であることを強調し、「市役所が近くにできたから商工業が発達する、という発想は私も持っていないが、行政がしっかりとそこに立って応援し、やる気をそがないようにすることも大事だ」とした。
 一方で、議員から3分の2以上の賛成を得ることについては、「正直、厳しいだろう」と市長。「ただ、われわれの考え方を一度提示せねばならないわけで、議員の皆さんのお考えも示してもらう。理想としては今定例会で決めたいが、たとえそうならなくても、もっと課題を浮き彫りにし、市民にご理解をいただく機会としたい」と述べた。
 安全性の面から高田小案を不安に思う市民がいることについて、市長は「お気持ちは重く受け止めている」とし、防潮堤の整備やかさ上げ、災害発生時に行政機能を停滞させないための「業務継続計画」の策定など、安全と防災の対策を盤石にすることで「皆さんには安心していただきたい」と語った。
 そのうえで「津波警報が出れば多くの住民が(現庁舎に隣接する)コミュニティホールへ車で避難してくるだろう。ここを造成しても職員の車が1台も止められないような状態になるため、かえって渋滞や混乱が起き、防災センターから救急車・消防車が出られないという事態も起こりうる」と付け加えた。
 市は高田小跡地での建設について、校舎の「改築」または「解体・新築」の2案を提示。高田小に決まった場合、「解体・新築」案が取られる見込み。
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 今回の提案について、高田町の40代男性は「大局を見て考えねばならないことだと思う。私たちの時間は6年前の3月11日で止まっているが、世の中の時計はどんどん進んでいる。決めるべきを決めねば、先へは進めない。決まらなければ議会の責任。落としどころを見つけ、現実に照らし合わせた方策を考えてほしい」と注文。
 一方、現庁舎位置での建設を推す米崎町の60代男性は、「役所職員は災害発生時、困っている市民を助けねばならない仕事。その職員が安心して働ける場所、いざという時オロオロしなくていい場所が、基本路線だという点を忘れないでほしい。高田のまちがどうしたら栄えるのかについては、役所の基盤がしっかりしてこそ考えられることでは」とし、庁舎位置決定の行方に不安をにじませた。