視点/陸前高田市庁舎建設位置の議論㊤

否決された「高田小案」
議論、どこかかみあわず

 

 陸前高田市議会3月定例会において、同市の新庁舎建設位置をめぐる条例改正案は否決された。国が定めた「復興・創生期間」が平成32年度に迫る中、大きく二つに割れた意見のどこに落としどころをみつけていくのか。立場を異にする双方は、互いに主張を戦わせるだけではなく「どうしたら一人でも多くの市民が納得できる結論を出せるか」というブレない視点を持ち、具体的かつ実現可能なアイデアを提案していくことが求められる。(鈴木英里)

 

 市当局が昨年11月に庁舎の建設候補地3カ所4案を示してから、市民の意見は高田町鳴石の現庁舎位置(案②)と、同町下和野の高田小跡地での新築(当局が示した呼称は「案③の2」だが、ここでは便宜上、案④とする)の二つに絞られたこと、〝安全性〟の観点から案④には根強い反対があり、市議会で3分の2以上の賛成が得られなかったことは、これまで本紙でも紹介した通りだ。
 当局はこれを受け、6月議会までに何らかの案を示すことになる。高田小案の否決はあらかじめ予想された結果ではあったが、建設場所の決定が数カ月先へ持ち越されたことに変わりはない。
 国から事業費の補助を受けられるのは32年度まで。6月に結論が出たとして、残された期間は3年足らずだ。庁舎の機能や、設計内容についての議論の中身もしっかり詰めたいと考えるなら、タイムリミットはそこがギリギリというところだろう。
 戸羽太市長によると、国との内々の協議では「32年度内に着工していればいい」という話も出ているとのことだが、それも〝口約束〟の域を出ず、なんら保証のない話だ。全国各地で大災害が多発する昨今、後になって政府から「やはり32年度内に事業を完了させてくれ」という〝お達し〟が出ないとも限らない。
 仮に「市単独の予算で建てます」と決断するなら、議員を含め市民全員が納得できるまで、何年でも話し合えばよい。だが、概算事業費として示されているのは、最低で54億円。これを最大限まで圧縮したとしても、ほかの公共施設再建も併せると、市の財源負担は自治体としての存続を揺るがしかねない額にのぼる。巨額の事業費を市単独で負うことは、現実的には難しい。
 市長が昨年末から行ってきた市民懇談会では、「いっそ、庁舎は仮設のままでいいのでは」という意見も聞かれたが、仮設建物の耐用年数はあまりにも短い。この先ずっと、数年おきに仮庁舎を造り直し、そのつど10億円前後の税金を拠出し続けるのは不経済に過ぎるし、職員がそうたびたび〝引っ越し〟に追われていては、本来の業務にも差し支えるだろう。それでは「市民サービスの向上」など期待できまい。
 当局から「案①」として「高田町の農免道沿い」が示されたように、ほかに建築可能な土地がまったくないわけではない。しかし、複数の地権者との説得交渉にどれほどの時間が費やされるか不透明であり、新たな土地取得・造成によって、総事業費は莫大な金額に膨れ上がることが予測される。
 スケジュール、そして費用といった面から現実的に考えると、やはり案②(現庁舎位置)、または案④(高田小での新築)のいずれかで決着をつける以外にはないということになる。

 市議会はこの二つの案について、復興対策特別委員会などで議論を交わしてきた。これまでにはなかった「議員間討議」も行った。だがその中身は、ある一点から平行線をたどるばかりで、いっこうに煮詰まる気配がない。つまるところ、「高田小案は適切だ」「いや、高田小には反対だ」以上の話には踏み込んでおらず、堂々巡りになってしまっている。
 「市は高田小が安全な場所だと考えているのか」「大津波警報が発表されて職員が避難したら、業務が滞るのではないか」という議員からの質問に応じ、当局は高田小跡地で建設した場合の防災対策や、「業務継続計画」について繰り返し説明。しかし、反対する側はそもそも「位置」に反対しており、いくら市が「対策」を提案しても話がかみ合わない。こうしたちぐはぐさは、やりとりの随所にみられる。
 おそらく、議員も、市側も、その議論を見守って来た市民も、「このままではいつまでも決着がつかない」ということには気づいており、不毛な思いを感じているはずである。
 では、何から手をつけたらもっと議論が深まり、結論へと近づいていけるのだろうか。