被災資料計134点の修復完了、都立中央図書館が市へ返還/陸前高田
平成29年3月31日付 1面

〝古里の宝〟よみがえる
津波をかぶり、平成24年から修復作業が行われていた陸前高田市立図書館収蔵の郷土資料が28日、同市にすべて返還された。発災から丸6年。本設の市立図書館がオープンするのを間近に控え、貴重な「郷土の記録」の数々が手元へ戻ったことを関係者は喜び、地道な修復作業にあたってきた人々へ深く感謝している。
東日本大震災で全壊被害を受けた市立図書館(橋本英雄館長)では、職員が犠牲となっただけでなく、収蔵図書およそ8万冊すべてが被災。同館車庫跡に、海水や汚泥をかぶった状態で積み上げられていたが、24年3月、同館から依頼を受けた岩手県立図書館と公益社団法人日本図書館協会、県内の大学関係者が郷土資料を救出し、乾燥などの応急処置を施した。
このうち絶版などにより再入手困難な資料51点を、本格的な図書修復部門を持つ東京都立中央図書館が受け入れ。さらに同館の貴重書庫にあった83点も関係者が救い出していたことが分かり、第2次として26年5月に修復を依頼した。
第1次受け入れ分の修復作業は27年3月に完了し、返還。今回戻ってきたのは約2年がかりで修復を終えた第2次分83点。被災後、うず高く積まれ、1年以上放置されていた資料は、汚泥がこびりつき、ひどくよれていたり、カビが生えているなど、「再び読むことは不可能」に思えた。
しかし中央図書館では、同館の前身である「東京市立日比谷図書館」の開館(明治41年)以来受け継がれてきた修復技術をもとに尽力。津波被災資料を扱うのは同館でも初めてのことだったが、資料保全専門員・眞野節雄さんら職員は、傷みが激しく、もろくなっている紙に、細心の注意をはらいながら試行錯誤を繰り返した。
点検と仕分け、撮影に始まり、本の解体、ドライクリーニング、消毒、洗浄、乾燥・平滑化、補修、再製本──という工程を繰り返す、気の遠くなるような作業。しかし眞野さんたちは、「これは亡くなった陸前高田の方々の〝形見〟なのだ」という思いと、「郷土資料を後世に残したい」という市立図書館職員の熱意に応えるべく修復にあたった。
今回返還された資料の中には、「仙台藩諸家中禄高記録」といった古文書をはじめ、村史や寺系図、神社の社記、石碑に関するもの、「広田の方言とわらべ歌」「むかし語り」のような地域の記録が含まれる。
さらに、高田松原などにあった歌碑の写真資料、市民会館前に建っていた母子像の建立記念誌といったように、震災前の陸前高田を記録した貴重な冊子も多い。古文書はもちろんのこと、郷土資料は発行部数が少なく、再入手が困難であるだけに、橋本館長(62)らも「ここまできれいになって戻ってきてくれるとは」と感激する。
新しい市立図書館の開館は今年6月ごろ。現在はオープンに向けた事務作業に追われる同館だが、館長は「開館に合わせ、修復過程のパネルなどと一緒に被災資料をご覧いただきたい」といい、修復に携わったすべての機関、関係者に感謝している。