故郷に恩返しを、物づくりの魅力伝える/陸前高田市小友町の陶芸家・佐藤さん

▲ 「陸前高田のために頑張りたい」。陶工房「遊炉」に飾る作品を眺めながら思いを新たにする佐藤さん=小友町

 陸前高田市小友町の陶芸家・佐藤ます子さん(67)が、陶芸の魅力を幅広い年代に伝えている。定年退職を機に東京都から故郷の同市にUターンし、夫の善治郎さん(68)とともにセカンドライフを満喫しようと改装した米崎町の自宅兼工房が震災で被災。ショックは大きかったが、支援者とのつながりに支えられ、立ち直った。「故郷に恩返しをするためにも陶芸、土の素晴らしさを伝えたい」と決意する。

 

震災で工房失うも再起

 

 善治郎さんの仕事の関係で東京に引っ越したのは約30年前。佐藤さんも大手非鉄金属メーカーの代理店に勤め、子育てと仕事に追われる忙しい日々を送ってきた。
 「老後は田舎で」。退職後は善治郎さんの生まれ故郷でもある陸前高田に2人で戻り、のんびりと暮らすのが夢だった。
 帰郷後は陶芸を地域の人と一緒に楽しもうと、都内の陶芸教室に3年間通った。米崎町にあった自宅は全面リフォーム。陶芸用の電気釜も購入し、工房も設けた。
 平成22年12月ごろ、約1年半をかけて改装工事を終え、理想のわが家で第二の人生を踏み出しかけた矢先に震災に遭った。工房は一度しか使えなかった。
 当時は東京におり、「陸前高田は壊滅状態」と聞いたが、被害の実態が分からず、惨状を目の当たりにしたときには言葉を失った。地元の人たちに見せようと工房に飾っていた人間国宝の陶芸品や自身の作品数十点はすべて流された。
 その後、都内と陸前高田を行き来する生活となったが、抜け殻のようになってやる気が出ず、ふさぎ込む日が増えた。それでも都内からの支援物資を災害対策本部や避難所に運び、2年間同市で支援を継続した善治郎さんの仕事仲間たちの食事の世話を続ける中で、「陸前高田のために頑張っている人がたくさんいる」と勇気づけられ、元気を取り戻した。
 25年10月、以前よりも半分以下の広さとなったが、小友町西下に平屋建ての自宅を新たに建設。震災を機につながった愛知県常滑市の陶芸家グループ「さくらっ娘隊」の仲介で、関東圏の陶芸家から電気釜を譲り受け、自宅の一室に陶工房「遊炉」を開設した。「さまざまな人とのご縁と支援でオープンできた。本当にありがたい」と感謝する。
 その後は、地元の小学生やシルバー人材センターの会員など各地に出向き陶芸を教える。佐藤さん指導のもと、遊炉を拠点に月2回活動している陶芸サークル「冬の華わらびの会」は、会員間の盛んな交流が評価され、「S(支え合い)―1グランプリ」で最高賞を受賞した。
 「陶芸で土に触れることにより癒やされるし、作業を通じて交流も図られる。陸前高田が震災前よりも素晴らしいまちに生まれ変わるため、できることをしていきたい」と意欲十分だ。