思い出の地で第一歩、陸前高田に移住し就職/横浜出身の古谷さん
平成29年4月7日付 7面

陸前高田市の一般社団法人・マルゴト陸前高田にこの春、新たな職員が加わった。神奈川県横浜市出身の古谷恵一さん(28)。陸前高田は慶応大時代の約10年前、アカペラサークルのメンバーとして歌を届けに訪れた思い出の地。住民が持つ地域への誇りや温かい人柄が忘れられず、就職に合わせて移住を決めた。民泊などを通じ全国に陸前高田の魅力を発信する業務に就き、「自分の転機となった陸前高田ならではの体験を多くの人に伝えられるよう頑張りたい」と意気込む。
「地域の魅力伝えたい」
古谷さんが陸前高田を初めて訪れたのは、平成20年の慶応大1年時。大学のアカペラサークル「デモクラッツ」の活動に参加し、市内で歌声を披露した。
「本格的に習ったわけでもない素人の歌。受け入れてもらえるのか」。東北に縁もなく、不安はあったが、一曲一曲を喜んで聞いてくれて驚いた。「自分たちの歌はこんなに価値があるんだ」と自信になった。都会では味わえない人のぬくもりにも触れ、「ずっとここにいたいね」とメンバー間で話した。
震災発生時は、就職活動の真っ最中。陸前高田の状況が気がかりで、すぐにでも駆けつけたかったが、自身の進路を決めることで精いっぱいだった。「教育に携わる仕事がしたい」と、震災翌年の24年に予備校に就職し、仕事に没頭した。
震災後、陸前高田を訪れたのは27年12月。デモクラッツOB・OGで結成したアカペラグループ「りくラッツ」の活動に参加し、久しぶりに仲間と一緒に歌声を響かせた。
学生時代に会ったことを覚えていた市民もおり、「津波でまちは変わったが、変わらないものもある」と地域の人々の魅力を再確認。仕事は充実していたが、「人とのつながりの方が大事だ」と気付かされた。
昨年もりくラッツの活動に2度参加。年末には「お試し」として1週間滞在し、地元のリンゴ農家や障害者の授産施設で仕事を手伝ったり、英語塾の臨時講師などを務めた。震災からの復興へ尽力するU・Iターン者らの活躍も刺激となり、移住を決めた。
マルゴト陸前高田では民泊体験を含めた教育旅行・研修の仲介を担当。28年度から同市で本格化した民泊事業は本年度、現時点で北海道や神奈川県、東京都など10校の中高生1600人以上を受け入れる。
経験のない業務ばかりだが、「不安よりも楽しさの方がはるかに大きい」と古谷さん。「大学時代の経験がなければ陸前高田を知ることはなかったと思う。民泊が、自分のように将来を考える機会となったり、また陸前高田に来るようなことにつながればうれしいですね」とほほ笑む。