「リンゴ生産量守りたい」水田から独自に転作、減りゆく果樹園に危機感/陸前高田
平成29年4月9日付 3面

陸前高田市の特産品で、ふるさと納税の返礼品としても抜群の人気を誇る「米崎リンゴ」。果肉を使ったジャムや、果汁100%ジュースといった加工品にも評価が寄せられる。一方、生産量の少なさが〝ブランド化〟の壁となっているばかりか、市内のリンゴ果樹園は震災を境とし減少傾向にある。こうした状況に危機感を持つ米崎町の菊池司さん(68)ら農家は8日、水田をリンゴ畑にすべく作業にあたった。
同市ではおよそ90㌶あったリンゴ畑のうち、2㌶ほどが大津波で被災。さらに、宅地化や道路拡張、担い手不足などによって、被災を免れた果樹園でも木が伐採される状況が続き、収穫可能な面積は震災前の3分の2程度まで減少しているものとみられる。
菊池さんは東日本大震災の翌年、同町の被災農地のうち合計およそ30㌃にリンゴの苗木を植樹。トヨタグループのボランティアが年数回、ここで摘果や収穫作業にあたっており、外部の人々との交流をはぐくむ場にもなっている。
市は本年度、「果樹産地化推進事業」として2000万円を予算計上。果樹の産地化を図るための調査や計画策定にあたるとしている。また農林水産物等を原材料とした新たな特産品加工物の開発にも約2600万円を充てるなど、リンゴやブドウの生産・加工にも力を入れたいという方針を打ち出した。
しかし、農業経営改善計画を立て、市町村から認定された「認定農業者」でなければ各種の補助金を受けにくいなど、個人で生産量回復に取り組むには限界がある。菊池さんは今回、水田およそ16㌃を果樹畑とし、リンゴ苗140本を植栽するが、支柱設置や苗木の購入等も自身の「手出し」によるものだ。
青森や長野といったリンゴの一大産地では、公的バックアップも手厚い。生産量全国2位の長野では、県とJAが「園地リース事業」に取り組む。借り手は造成費と金利を分割払いすることになるが、補助によって負担は少なく済み、しかも農地はいずれ生産者に払い下げられる。新規就農の門戸を広げつつ、休耕地もよみがえり、改植の手間をかけず規模拡大を進められるという仕組みだ。
こうした取り組みが陸前高田でも広がってほしいというのは、真剣にリンゴ栽培に取り組む生産者たちの願い。「個人でできることは限られるし、自分もいつまで農業ができるか分からない。だが若い人が引き継いでくれる可能性も考え、せめて〝基盤整備〟をしておきたい」と菊池さんは言う。
海辺で栽培されるという環境の珍しさだけでなく、それが味の良さにも結び付いている点が米崎リンゴの魅力。同市最大の売りにできる可能性も秘めた産物であることから、生産量拡大へ向けた〝本気の〟施策に期待したいところだ。