念願の稽古場が完成、沙舟書院の伊藤理事長/陸前高田(別写真あり)
平成29年5月5日付 2面

陸前高田市の三陸書人社沙舟書院(伊藤沙舟理事長)の稽古場が高田町太田地内に完成し、4日、現地で落成式が行われた。理事長の伊藤さん(59)は震災で夫・幸則さん(当時54)を亡くし、気仙町の自宅も流失。深い悲しみに暮れたが、傷ついた心を支えたのは書と、研さんし合ってきた仲間や生徒の存在だった。震災から6年2カ月を前に念願の拠点が完成し、新たな一歩を踏み出した。
書の振興へ新たな一歩、津波で夫が犠牲に
落成を祝うかのような快晴に恵まれたこの日の式には、約40人が出席。交流の深い多田欣一住田町長も駆けつけた。来賓の熊谷睦男市芸術文化協会長は「この新たな拠点で気仙の地から全国に書の文化を発信し、世界に羽ばたくような飛躍を期待している」と祝辞を述べた。
テープカットや祝賀会のあと、建物の見学会も。真新しい教室内は、関係者たちの明るい笑顔であふれた。
伊藤さんは幼いころから書道を習い続けた。三陸書人社に所属し、専門は詩文書。創玄展秀逸賞、毎日書道展秀作賞などの受賞歴を持つ。
昭和61年に沙舟書院を創設し、後進の育成にも力を入れてきた。津波で自宅が流され、数々の作品も流失。当時、民生委員を務めていた幸則さんは、逃げ遅れた住民がいないか確認するため自宅周辺に戻り、犠牲になったという。
根っからの明るい性格だが、毎日のように涙を流し、しばらくの間ふさぎ込んだ。それでも「このままでは先へ進めない」と自らを奮い立たせ、震災2カ月後の5月、再び筆をとった。
米崎町のみなし仮設住宅を拠点に指導も再開。広田町の被災者から「仮設で子どもたちが何もすることがない。書道をさせて心を落ち着かせたい」と頼まれ、同町の仮設住宅でも教室を開き、津波で亡くなった三陸書人社の先輩の代わりに釜石市での指導役も引き受けた。
震災前までは公民館などに自ら出向いて指導してきたが、津波で公共施設も被災したため、稽古場の建設を決意。今年4月に木造平屋、広さ約50平方㍍の拠点ができ、隣には6月末ごろ、自宅も完成する。
稽古場での教室は6日(土)にも始める予定。初心者に書道の楽しさを伝えるため、これまでなかった短期間の「6カ月コース」も設ける。
伊藤さんは「ようやく新たな一歩を踏み出せた。生徒や書道に携わる全国の関係者に支えられて今があり、感謝してもしきれない。書の魅力をもっとたくさんの人に伝えられるよう頑張ります」と決意を新たにした。
教室に関する問い合わせは伊藤さん(℡090・1932・0202)へ。