中心拠点として定着、まち家世田米駅が利用開始1年で来訪者2万人/住田町

▲ 幅広い世代の利用がみられるまち家世田米駅=住田町

 住田町が世田米商店街沿いに整備した住民交流拠点施設・まち家世田米駅はプレオープンから1年を迎え、来訪者が約2万人となった。明治から昭和中ごろにかけて建設された旧菅野家の家屋や蔵などを活用した施設で、レストランや交流カフェの利用が多く、交流人口拡大の拠点として定着。町の当初予想を上回る来訪者で推移している中、さらなる活用の展開が注目される。

 

古民家活用 上々の集客

 

 旧菅野家は、明治後期に建設され、昭和30年代まで増築・改修が行われた。主屋は間口が狭く奥行きが深い構成で、妻入りの町家が立ち並ぶ世田米の景観を象徴づける。表2階の縁側付客座敷のほか、「土間」「みせ」「帳場」「おかみ」「ざしき」と続く1階の構造や意匠など、すぐれた建築技術が凝らされた空間が広がる。
 町は、平成23年度に決定した町中心地域活性化構想に基づき整備に着手。構造や部材をできる限り当時のまま残し、レストランやコミュニティカフェ、交流スペース、まちや体験スペース、蔵ギャラリーなどを設けた。地域住民の生涯学習や文化活動などを担う世田米地区公民館機能も入っている。
 27年度に工事が本格化し、昨年4月29日にプレオープンとして一部を開業。大型連休後は再び工事が行われ、同年6月、施工業者から施設引き渡しを受けた。指定管理者制度により、一般社団法人・SUMICA(村上健也代表)が管理・運営を担ってきた。
 同法人によると、プレオープンから1年間の来訪者は1万9887人。町は当初、1万6000人程度と見込んでいた。
 内訳は、地元食材を生かしたメニューを提供しているレストラン「kerasse(ケラッセ)」への来訪者が1万1678人。商店街側の自由にくつろげる交流カフェは6056人、施設見学は550人、畳敷きの交流スペース利用は1603人となっている。
 レストランの来訪は、レジ管理や各種イベントの参加者数で、交流カフェなどは管理スタッフが目視などで集計。この集計とは別に、スタッフが常駐していない夜間の利用もある。オープン当初は町内、町外在住者の割合はほぼ半分で、昨年9月以降は町外からの来訪が目立つという。
 多田欣一町長は「行政だけでの運営では、活気がしぼんでしまう。民間の英知が加わり、イベントなどをうまく開催してもらっている。食いくプロジェクトの地域おこし協力隊員に加わってもらったシェフに加え、レストランにもう1人シェフが増えたのも大きい」と振り返る。
 そのうえで「にぎわいを一過性にしてはいけない。交流人口拡大につなげていかなくては」と、今後を見据える。
 レストランには昨年10月、東京都内のレストランで腕を振るってきたシェフ・坂東誠氏(44)が加入。季節にちなんだメニュー提供や、地元食材に光を当てた企画など、運営に広がりが生まれた。
 坂東氏は「サラダバーをはじめ、地元食材のおいしさをストレートに伝える方法も見えてきた。しかし、まだまだ使えるものがあるとも感じている。『わざわざ来ていただく』ような価値を生み出し続ける差別化が今後も重要」と話す。地元に親しまれ、誇りを持てる施設として、地元住民や高齢世代の利用拡大にも知恵を絞る。
 昨年から今年にかけ、歴史的景観を生かしたまちづくりの動きも進んだ。昨年11月、旧菅野家住宅の主屋、離れに加え、敷地内の蔵4棟に対し、文化審議会が国の登録有形文化財(建造物)にするよう文部科学大臣に答申。今月2日付で、正式に登録された。
 町は今後、未整備となっている蔵や外構部の活用のあり方について検討を進める。
 1年目はレストラン利用が多い状況が続いた中、町関係者は交流スペースや屋外空間を生かした活性化のアイデアなど、住民主体の積極的な活用にも期待を込める。経済面や地域活性化など、町全体への波及効果にも関心が高まる。