視点/住田町「地域おこし協力隊員」が生きる取り組み

▲ 合同会社設立を見据える(左から)菊池さん、佐藤さん、佐々木さん=下有住

 〝柔軟さ〟多彩に活用
   地元住民と合同会社設立の動きも

 

 住田町が、町内5地区に配置している地域おこし協力隊員。地区に根ざした活動に取り組むだけでなく、合同会社の設立や、住田全体の活気につながる活動に参画する動きが出始めている。住田町では年間100人のペースで人口減少が進み、若い人材の確保が急務。都市部での勤務経験を持つ30歳前後の協力隊員が、地域振興をけん引する役割としてさらに輝きを見せるか注目される。(佐藤 壮)

 

 地域おこし協力隊とは、都市部から生活拠点を移した人を各地方自治体が1~3年の期間で採用。地場産品の開発・販売、農林水産業への従事、住民の生活支援などを業務としながら、地域への定住・定着を図る。総務省の制度で、県内各市町村で導入が広がる。
 住田町の人口は4月末で5739人で、県内の町の中では最も少ない。豊富な地域資源を誇る一方、急速な人口減少や高齢化により、地域・地区ごとの住民活動維持にも難しさが生じている。
 こうした中、町は地域主体のまちづくり推進に向け「小さな拠点づくり」に着手。住民自治につながる集落生産・交流活動を支える協働の仕組みを目指す。町はその推進役として、協力隊員の採用を進めた。
 採用では都市圏に居住し、採用後に住田町に住民票を移せることなどを条件とした。本年度から世田米、大股、下有住、上有住、五葉の5地区すべてに町外出身者の協力隊員が配置された。



 先月末で人口333人と、町内5地区の中で最も少ない五葉地区には昨年12月、菊池顕さん(30)が着任。釜石市生まれで、8年前から盛岡市に百貨店を構える㈱川徳に勤務し、主に食品分野を担当してきた。バイヤーや物産展運営などで培った経験を生かした働きが期待されている。
 菊池さんは観光資源プランナーとして、地区内の観光資源や食品分野での企画・開発、地域振興の推進といった役割を担う。五葉山火縄銃鉄砲隊にも入り、現在は鉄砲隊特製「ドン菓子」の実演販売に向けた検討を重ねている。
 さらに、合同会社「HUB(ハブ)」の設立を目指している。農業を営む佐藤道太さん(32)=下有住=と、町観光協会事務局の佐々木康行さん(40)=世田米=と手を組み、町の地域活性化につながる商品開発や販売、イベント実施を見据える。
 協力隊員は、任期中に副業が可能。菊池さんは「任期後に定着して仕事をすることを考えると、準備として副業ができるのは重要。自分は小売業が長く、商品を売る出口側の人間だった。以前から、生産者と一緒に何かやりたいとは考えていた」と話す。
 佐藤さんは、町内の遊休農地を借りるなどして稲作6・5㌶、畑作1㌶を手がけ、首都圏の飲食店関係者らと独自のつながりを持つ。「地産地消は、ある程度大きな規模の自治体でないと厳しい。地元外で売られ、そのメリットが地元にフィードバックしていく流れも重要」と、販路開拓を見据える。
 佐々木さんは6年前から住田の観光物産振興に携わり、菊池さんにはない住田での人脈や情報を持つ。「地域のおばあちゃんが地道につくってきた逸品を生かして新しい形で広げるとか、規模が小さい市場にも目を向けながら活動できれば」と語る。

 


 一方、住民の半数超が暮らす世田米地区に平成28年度から配置されている植田敦代さん(31)=花巻市出身=は、24年度からいわて復興応援隊の一員として住田に入った。協力隊員に加え、現在はNPO法人・wizの理事、一般社団法人・SUMICAの副代表理事としても活動している。
 SUMICAは、昨年から利用が始まった住民交流拠点施設「まち家世田米駅」の指定管理者。古民家の雰囲気を生かした中でのレストラン営業や多彩なイベントで町外からも関心を集め、運営1年目は町の予想を上回る約2万人の来訪者があった。
 「どの団体も『住田町が元気になること』『住んでいる方々が町を誇りに思えること』を生み出すために動いており、立場を区切って活動している意識はない。自由にやれる体制や、さまざまなことに挑戦しやすい雰囲気をつくってくれているのは大きい」と語る植田さん。活動に対する行政側の支援体制にも信頼を置く。
 「住田のためになりたい」と、都市部から飛び込んできた若者たち。意欲を尊重するだけでなく、町や住民側には各協力隊員が持つ知識や経験を積極的に活用していく姿勢が欠かせない。持続可能な地域づくりに向け、受け身にならない「自主性」が問われているともいえる。