新庁舎は「高田小跡地」に、賛成14 反対3で関係条例案を可決/陸前高田市議会

▲ 議長を含む14人が起立し、庁舎位置を高田小に変更する条例案が可決された

 陸前高田市役所の新庁舎建設位置を、移転が計画されている高田小(高田町)の跡地に変更するための条例案が、9日開会した市議会6月定例会に提出され、即日採決の結果、賛成14、反対3で可決された。今年の3月定例会では、可決に3分の2以上の賛成を必要とする同じ内容の議案が賛成10、反対7で否決されたが、その後に行われた議会と当局の話し合いの中で「一定の理解を得た」とし、4人の議員が賛成に転じた。一方で、議員間では賛成・反対の別なく「十分に議論が交わされたとは言えない」「すべてに納得できているわけではない」との声が多く上がり、「庁舎の位置が決まっただけ。中身についてはまだまだ検討の余地がある」と、新たな話し合いに向けて気持ちを切り替える場面も見られた。

 

 3月に否決され再提案

 

 議員17人全員が出席。当局はこの日、3月定例会の際と同様、市役所位置を「高田町字鳴石42番地の5」から、高田小学校がある「高田町字下和野1番地」に改めるとする「陸前高田市役所位置設定条例の一部を改正する条例」を提出した。
 質疑に続いて、大坂俊、畠山恵美子、福田利喜の3議員が反対討論を、菅野定、藤倉泰治、蒲生哲、三井俊介、中野貴徳の5議員が賛成討論を行った。
 反対討論の中では、「(これまでの議論の)経緯・経過に多くの疑問を感じる」「建物や立地上の高さに論点が収れんされ、ハード面の条件のみで終わってしまっている。本格的な議論は、事実上〝時間切れ〟状態で進められてきた」と指摘も。「復興・創生期間内である平成32年度内での事業完了」という〝制限〟がかかった状態で話が進んだことについて、「庁舎位置のような重要な議論は、数度の定例会にまたがってなされるべきだった」とし、当局側の段取りや進め方に問題があったと指摘した。
 一方、前回「反対」の立場を取っていた議員のうち、蒲生、三井、中野の3議員は、いずれも「『浸水区域外での建設』『人命最優先』という考え方には変わりがない」という点を前提としながら、「3月以降の当局との議論の中で、高田小以外での建設は難しいという判断に至った」などと述べ、職員らの避難行動や庁舎建設イメージなど、市側の再提案内容に一定の理解を示した。
 そのうえで三井議員は、「話し合いは、不十分なものだった。本当に大切なことはまだ話し合えていない」として、「(建設の)基本方針や総合計画、市民の合意形成を図っていくプロセスなど、しっかりつくりあげていくことを求める」と要望。蒲生、中野の両議員も、「今後さらに、ハード・ソフトの両面から安全対策など吟味しなければならない」とし、あくまで〝条件付き〟賛成の立場であることを示した。
 今回の可決を受け、市長は閉会後、「もろ手をあげて賛成していただいたわけではないと理解している。何をどうしたら、市民の皆さまの心配が軽くなるのか、いろんな対策を考えていきたい」と述べた。
 新庁舎建設に向け、市当局は7月ごろからの基本設計に入り、32年度中の完成を目指す。
 同日はこのほか、報告6件、執行前提案15件についても即決。小友地区コミュニティセンター建設工事や、市道誂石線の誂石橋橋梁災害復旧工事の請負契約締結についても議決した。
 このうち、気仙町や矢作町民が多く利用する誂石橋は、震災前は車両が片側通行しかできない橋だったが、復旧後は「幅員6・5㍍の2車線にする」とした。

 

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 解説 3月定例会での否決から3カ月弱。新庁舎の建設位置をめぐっては、復興対策特別委や全員協議会といった場で、議員と当局の質疑応答が繰り広げられ、非公式の懇談も持たれるなどしてきた。
 当局はあくまでも「高田小跡地での建設」という前提条件を変えなかった。反対議員が懸念する「浸水域での建設」「〝安全〟ではあっても〝安心〟できる場所ではない」という声に対し、TP(東京湾海面平均)17㍍までのかさ上げや庁舎の高層化など、建設イメージを変更することで対応してきた。
 同時に、現仮設庁舎位置で本設庁舎を建てることが「困難であると分かった」と説明。▽必要十分な土地が確保できない▽三陸道のインターの出入り口があるなど、交通上の安全性が図れない▽災害発生時に低地部から多くの車両が避難してきた場合、消防防災センターの緊急車両の出入りに問題が生じる──などを理由に挙げた。
 また、「平成32年度を超えると、国からの補助を受けられなくなる可能性が高い」と強調。市長は「6月議会で決めていただきたい」と繰り返してきた。
 「市役所は安心安全な場所に建設すべき」として連名でチラシを発行するなど、3月定例会の採決で反対の立場を取った議員7人は、その立場を覆さないものとみられていた。しかし、今回4人が賛成に転じた背景には、この「32年度内に事業を完了させなければ」「復興が停滞する」というプレッシャーが、最も大きかったとみられる。
 賛成討論の中では、「議論が長期化し、(高田小案に反対する)地域住民の中からも『早く結論を』という焦りにも似た声が次第に大きくなっていった」と述べる議員も。「結論をこれ以上先延ばしにするのは得策ではない」という機運が、住民の間でも高まっていった様子がうかがえた。
 反対から賛成に転じた議員の1人も、「期限が迫っているというのが最大の理由で、すべてに納得できたわけではない。ただ、これまでのやりとりの中、当局にはこちら側の要望にも真摯(しんし)に対応してもらったという思いはある。これから地元を歩き、今後何をしていく必要があるか、しっかり聞き取り、議論に反映させていくことが大事だと思っている」と語った。
 昨年11月に始まった建設位置に関する議論は、これで決着を見た。ただ、どこに建てるかこそ決まったが、どんな庁舎機能を持たせるかや、建設費用にむだがないかなど、議会がこれから精査すべき事項は数多くある。
 高台へ移転予定の高田小学校の完成は、平成31年度。現校舎を使用しているうちに、グラウンド側の土地造成が始まることから、児童の学習・運動環境を損なわないための対策も必要となる。いざという時の高台への避難道整備についても、課題は多い。
 いずれ、〝期限〟が32年度であるのなら、あまり時間がないことに変わりはない。当局には、早い段階で議会や市民に基本設計などのイメージを示し、議論を俎上に載せることが求められる。(鈴木英里)