〝一本松の音色〟NYへ、被災マツで製作のコカリナ/陸前高田(動画、別写真あり)

▲ 黒坂さん㊨と阿部社長。一本松で作られたコカリナと布が11月に海を渡る=陸前高田市役所

 「奇跡の一本松」など陸前高田市の被災マツを加工して作られた「コカリナ」の演奏会が11月、米国・ニューヨークにある音楽の殿堂「カーネギー・ホール」で開催されることが決まった。これを受け18日、出演者であり、NPO法人日本コカリナ協会長を務める黒坂黒太郎さん(67)=埼玉県飯能市在住=らが同市を表敬訪問。コンサートでは、一本松のチップから織られた布で舞台衣装も仕立てられるといい、関係者が同日、チップの搬出作業も行った。一本松で製作されたコカリナが海外で演奏されるのはこれが初となる。

 

 11月にカーネギーホールで演奏、マツのチップで舞台衣装も

 

 同協会は平成24年、奇跡の一本松の枝部分を使用し、木管楽器の一種であるコカリナを製作。高田松原の被災マツも使い、市内小学校の児童延べ1400人にコカリナをプレゼントする活動を継続しているほか、25年3月と11月には同市で地元住民らとともにコンサートも開いている。
 ニューヨークを代表する音楽堂であるカーネギー・ホールでは、「コカリナコンサート 蘇る命」と題し、日本コカリナアンサンブルのメンバーと、現地日本人学校の児童ら、総勢210人が出演。一本松や高田松原のマツで製作されたコカリナに加え、東京の国立競技場建て替えのために伐採された木でも楽器が作られ、大合奏することになっている。
 さらに今回は、同市に保管されていた一本松のチップから木糸を作り、木の繊維でできた布を織る。これには、同協会の活動趣旨に賛同した繊維メーカー㈱和紙の布(阿部正登社長、大阪府阪南市)が協力する。
 この日は黒坂さんと阿部社長、市との橋渡し役を務めた一般財団法人日本ユースホステル協会の諸星利雄特命参事が、市役所を訪問。戸羽太市長と懇談した。
 黒坂さんらは市長に、コンサート開催に至った経緯や、木から布を織る過程などについて説明。黒坂さんは「アメリカの人たちは、国立競技場と聞いてもピンと来ないようだが、一本松のことはみんな知っている。一本松で作られた衣装を身に着け、〝音〟と一緒にこちらのことも伝えたい」などと述べた。
 このあと関係者は、米崎町にあるJAおおふなと東部農業センターから、木片状になった一本松およそ660㌔を搬出。阿部社長(59)は「120㌢幅の布が2500㍍以上できる量。チップの状態もよく、柔らかいベージュの布に仕上がりそう」といい、「勇気と希望を織り込んだ布を作ることで、皆さんを応援できたら。自分たちにとっても貴重な機会をいただいた」と意気込んだ。
 震災後も多くの海外公演を行ってきた黒坂さんだが、一本松で作られたコカリナを国外で演奏するのは初めてのこと。自身の曲である『大樹の祈り』や、スコットランド民謡の『海原』、ベートーヴェンの『喜びの歌』を演奏するとともに、「陸前高田のことも話してきたい」とする。
 また、同コンサートはチャリティーイベントとして開かれ、益金は難病であるALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の支援のために寄付される。黒坂さんは「一本松の命、震災で亡くなられた方の命、ALSで苦しむ人たちの命──と、すべての〝命〟につながる演奏会。皆さんの思いをNYの人々にも伝えられれば」と語った。