上有住の櫻井医院 今月末で幕、町内唯一の民間医科診療所/住田

▲ 現在は休診となっている櫻井医院。今月末で閉院する=上有住

 住田町で唯一の民間医科診療所・櫻井医院=上有住八日町=が、今月末で閉院する。現院長の櫻井末男医師(92)はこれまで60年以上にわたり運営を続けてきたが、自身の年齢などに向き合い、町内の福祉施設嘱託医や産業医としての活動を途絶えさせないためにも、区切りを付けることを決めた。通い続けてきた患者全員の紹介状を書くなど引き継ぎは行われたが、町内では閉院後も地域住民が不安なく過ごせる地域医療の確保・充実が急がれる。

 

 櫻井医師によると、今年春から閉院準備を本格的に進め、診療に訪れていた約320人分の紹介状を書いた。閉院を告げられ、涙を流した患者も。住民たちは今後、世田米の県立大船渡病院附属住田地域診療センターや、遠野市の医療機関などに通うことになる。
 櫻井医院は藩政期の約400年前、陸前高田市気仙町の長部地区で開業。内陸部と沿岸部の産物交換地や宿場町として栄えた上有住の八日町には、約360年前に移った。大船渡市三陸町吉浜出身の櫻井医師は国保綾里病院を経て、昭和30年ごろから診察してきた。
 閉院の理由について櫻井医師は「自らの年齢もあるし、ここ10年ほどは経営的にも厳しい状況が続いていた。看護師をはじめ、医療スタッフ確保の難しさもある」と語る。
 また、櫻井医師は医院での診療にとどまらず、特別養護老人ホーム・すみた荘の嘱託医や町内の産業医、学校医を担う。最近でも1日で300人を診ることがあったといい、「こうした業務を続けるためという理由もある」と話す。
 町内の医科診療所は、この1年で世田米、上有住にそれぞれ古くからあった民間施設がなくなり、公立の住田地域診療センターのみとなる。世田米の上代(わんだい)医院は、医師の健康上の理由で昨年4月から休診し、同年6月末に閉院した。
 これまで町は、気仙地区内の医療関係者と相談・協議を重ね、同じ場所で医院運営を担う医師確保に向けて調整。しかし診療再開には至らず、施設は解体された。
 町では医師確保の見通しはあるとしてきた半面、課題の一つは経営体制。赴任環境を早期に整えるため既存法人が運営母体となるよう交渉を進めてきたが、新たな医療機器設備導入への対応能力といった難しさもあったという。
 また、県に対しては診療センターの医療体制強化・充実を要望。入院ベッド確保や外来、訪問診療の各充実、初期救急医療体制の確保や、訪問介護の実施と充実を求めている。
 地域における医師や診療所の役割は、体調不良を訴える住民の診察だけでなく、予防接種など多岐にわたる。また、高齢化に伴い、交通手段に不安を抱える住民は増加傾向にある。今後さらに、地域医療充実に向けた行政機関などの行動が注目される。
 町保健福祉課では「これまで休診となっている間も、目立った混乱、影響は把握していない。今後も状況を見極めながら、支援策として何ができるか検討していきたい」としている。