憩いのスペースも充実、市立図書館が本設でオープン/陸前高田(別写真あり)

▲ おしゃべりしながら気軽に本を手に取れる「くらしを楽しむコーナー」など、新しい工夫がいっぱいの図書館。フタ付きの飲み物は持ち込める=高田町

 陸前高田市高田町の大型商業施設アバッセたかたに隣接する市立図書館(戸羽良一館長)が20日、本設オープンを迎えた。数々の支援を受けてそろえられた図書6万5000冊と、DVD・CD計4500点、雑誌100種類が真新しい館内に並び、近隣5市町の利用者を待ち構える。中心市街地においては、商業エリアとの相乗効果によるにぎわい創出のほか、竹駒町の仮設図書館で大切にされてきた「ほっと一息つける場所」として役割が期待されている。

 

ずっと待ってた こんな場所

 

 同日行われた開館記念式典では、戸羽太市長の式辞と建設経過報告、来賓祝辞、テープカットが行われ、待望の施設オープンを祝福。高田松原商業開発協同組合の伊東孝理事長(63)は祝辞で「いつまでも親しまれ、愛され続ける場所になってほしい」と述べ、アバッセと一緒になった発展を願った。
 この日は午前10時に一般開館。オープンを待ちわびた〝本好き〟らが訪れ、県産カラマツの柱と高い天井を見上げたり、気仙スギが使われた床の感触などを確かめた。施設は、同市と大船渡市、住田町、一関市、気仙沼市の住民が利用でき、同日も貸出カード発行手続きをする人たちが多く見られた。
 米崎町の馬場幸子さん(57)はさっそくたくさんの図書を抱え、「前にはあまりなかった翻訳ものなども充実している。せっせと通って〝探検〟したい」と、本との出合いに胸をふくらませた。
 同館は、フタ付きであれば飲み物の持ち込みが可能。館内には、スタッフがテーマ別に図書を詰め合わせた「本の福袋」が用意されるなど、図書に親しんでもらうための工夫が随所に見られる。肩ひじ張らずに読める趣味の本や雑誌をそろえた「くらしを楽しむコーナー」には、ゆったりした一人がけソファが置かれ、おしゃべりしながら過ごすこともできる。 
 一方、静かに読書・勉強したいという人のために「サイレントルーム」を、児童コーナーには乳幼児連れ利用者のために「親子トイレ」と授乳室を設置。「おはなしの部屋」と名付けられたスペースでは今後、定期的に読み聞かせ会も行われる予定だ。
 全館フリーWiFiに接続でき、利用者はタブレット端末やノートパソコンの貸出も受けられる。書架の間はゆとりがあり、車いすでの移動もらくらく。視覚・聴覚障害者や外国人らへの配慮もなされている。
 従前の施設にはなかった、「居場所」としての機能が充実した本設図書館。同館建設にあたって掲げられた「訪れるだけで安らぐ」「豊かな日常を取り戻すお手伝いをする」といった基本理念は、大津波で失われてしまった、人々の「居場所」と「憩いの場」の役割を、仮設施設が果たしてきたからこそ生まれたものだ。
 震災後、小友町にコミュニティー図書室を開設し、同市の読書環境維持に尽力したシャンティ国際ボランティア会の古賀東彦さん(55)は、「自分たちも仮設の市立図書館も、『ほっと一息つける場』ということを強く意識し運営にあたってきたと思う」と振り返る。本設オープンに伴って同図書室は28日で終了するが、「仮設時代につちかってきたものを大切に引き継ぎながら、新しい役割をまた生み出してもらえれば」と、新図書館へ希望を託した。
 また、オープンへ至るまでには、数限りない支援の手も差し伸べられてきた。その中には「被災した郷土資料を取り戻す」という難事もあった。東京都立中央図書館の資料保全専門員・眞野節雄さん(66)は、被災図書を修復するにあたり、「職員の方の『地域の歴史を伝えていきたいんです』という言葉が胸にズンときた」といい、足かけ5年の作業に従事。新施設を見渡し、「皆さんの強い思いがあったからこそ、ここまでこられたのだと思う。陸前高田で生きてきた人々のことや、その歴史も大切にする施設となってほしい」と感無量の表情で語った。