難聴に負けず民謡響かす、29日の「うたごえ祭り」 ゲスト出演の齊藤さん(大船渡)/陸前高田
平成29年7月27日付 7面

陸前高田市高田町の市コミュニティホールで29日(土)に開かれる「第2回うたごえ祭りin陸前高田」(横浜歌声の会「涼風」主催)に、震災後難聴で苦しみながらも歌い続ける県民謡保存会大船渡支部の齊藤も利歌さん(本名・森子、74)=大船渡市立根町=がゲスト出演する。震災でCDリリースを果たせなかった高田町大石地域の魅力を歌詞に込めたオリジナル曲を陸前高田市で初めて披露する予定で、「聴力がある限り頑張りたい。少しでも元気を届けられれば」と意欲を語る。
〝幻〟のオリジナル曲披露へ
歌詞をプロジェクターを使って映し、好きな楽曲を来場者全員で歌う〝参加型〟の音楽イベント。横浜市の音楽応援団23人が盛り上げるほか、ゲストとして口笛パフォーマンスで知られる横浜サウンドストリームと、齊藤さんが出演する。
齊藤さんは盛岡市に住んでいた20代のころ、職場の同僚にいたアマチュア民謡歌手の影響を受けて民謡を習い始め、のめり込んだ。平成12年には地元民謡の「くるくる節大会」で初代王者に輝き、県民謡保存会大船渡支部の副支部長を務めるなど精力的に活動した。
震災で大船渡町の自宅が全壊し、がれきのまちと化した無残な光景に心を痛めた。ストレスからか耳鳴りなど耳の不調を感じ始め、震災発生4カ月後に猪川町の長洞仮設住宅に入居したころ、突発性難聴を発症していたと知った。
難聴と同時にめまいに悩まされ、立ち上がれないほど深刻な時期もあった。「もう民謡は無理だろう」と引退を考えたが、家族や民謡仲間の支え、復興を後押しするボランティアの姿を見て、「自分だけふさぎ込んでいてはだめだ」と踏みとどまった。
平成23年の夏、長洞仮設で開かれた夏祭りで、久しぶりに歌声を披露した。復興も進んでいない状況で歌うことにためらいはあったが、「歌っているときは、つらいことも忘れられる」と音楽の素晴らしさを再確認できた。
その後は仲間とともに仮設住宅や特別養護老人ホームなどを訪れ、歌声を通じて市民らを元気づけてきた。聴力は年々下がり、2年前から右耳は音を聞き取れなくなった。左耳も悪化し、めまいは今も引き起こす。「いずれ両耳が聞こえなくなるだろう」。不安がつきまとうが、「その時まで歌い続ける」と心に誓う。
29日に披露するのは、『大石ふれあい音頭』と『南部俵積み唄』。大石ふれあい音頭は23年春にCDリリースする予定だったが、震災で生産は中止。明るい曲調のためこれまで歌うのを避けてきたが、今回陸前高田で初めて響かせる。
齊藤さんは「主催の涼風さんからいただいた貴重な機会。一人でも多くの人に聴いてもらいたい」と話す。
うたごえ祭りは午後1時~同3時30分まで。入場無料で、事前予約は不要。
問い合わせは、事務局の佐藤さん(℡47・5742)へ。