16年ぶりの新リーダー、神田謙一住田町長に聞く

先月23日の住田町長選で初当選を飾り、16年ぶりの新リーダーに就いた神田謙一氏(58)。これまで獣医師や民間企業幹部として畜産業振興に尽力してきた経験を生かし、都市と地方の格差解消や「医・食・住」の充実などを訴え、地域住民との対話を重ねてきた。新人同士による激戦を勝ち抜いた選挙戦の感想や、町政運営への抱負を聞いた。

 

人口減対策に意欲、やりがいある仕事創出を

 

 ──新人同士の一騎打ちを144票差で制し、初当選を飾った。この票差を、どう分析しているか。

 神田 知名度が低いことは、告示前から分かってはいた。これまで畜産分野で一緒にやってきた皆さんに、しっかりと支えていただいた。そういう意味で、私の人間性を認めてくれた、今までの私の仕事が間違っていなかったと感じることもできた。後援会の皆さんには、本当に一生懸命動いていただいた。


 ──町の現状を、どうとらえているか。
 神田 町の活性化には、人口が必要。やはり働く場所が大切であり、しっかり改善していきたいと考えている。
 農業振興でも、畜産を含め町として政策的に後押しをしていくことができれば。若者が生活できる所得の確保が大事。積極的に情報発信をしながらIターン者を受け入れ、さらに地元で育った子どもたちが「戻ってきたい」と思えるように、やりがいがある仕事を創出していかなければならない。
 新規就農の推進だけでなく、今頑張っている事業所とのさらなる連携も模索し、起業も支える。実際にどのような支援が必要か、ハード・ソフト両面から考えたい。


 ──出馬表明以降「医・食・住」の充実を掲げるが、町内では民間医科診療所がゼロとなるなど、とくに「医」への関心が高い。
 神田 医師の確保は大事。ただ、例えば確保のために多額の投資をしても、財政的に苦しくなり、数年で医療機関を閉鎖せざるを得ない状況になってはいけない。継続性があり、本当に町民のためになる方法を探っていきたい。また、医療技術が進歩し、検査方法も発達している。予防分野の充実も重要だ。


 ──後援会活動では、自らの政治姿勢を丁寧に伝える動きが目立った。具体的な政策を、今後どう打ち出すか注目される。
 神田 確かに相手候補の訴えには、インパクトがある施策もあった。本来的には、財源をどうつくるかが重要。家計でも収入、支出があり、そのバランスの中で支出の優先順位を決める。町全体としても、同じ考えをしていかなければ。

 

 ──これまで、住田町農協では獣医師として家畜診療所に勤務し、住田フーズでは常務などに就いた。今後は行政のリーダーとして、どのように農業振興を後押ししていく考えか。
 神田 たとえば、自分の農場の経営分析はできているだろうか。生産者の皆さんは休みがなく、肉体的にも負担が大きい。自分自身の経営分析や、ポイントを押さえた経営といった面は、現実的にはできていないととらえている。そういった分野での専門家のアドバイス、専門機関の活用といった支援は必要と感じている。

 

 ──町は平成19年前後に、三陸木材高次加工協同組合と協同組合さんりくランバーに計7億9000万円を融資。現在、町有林原木未納額なども含めた10億円余りの支払いを連帯保証人らに求め、調停手続きを進めている。今後の対応は。
 神田 雇用の場として考えても、両事業体はやはり継続していくべき。経営的な部分を一つずつ確認し、どうやれば継続できるのかを考えていきたい。できるだけ短期に収束させないといけない。状況的には、政治的な判断も必要になるだろう。多田欣一前町長にも、積極的な協力をお願いしたいと考えている。

 

 ──町組織、職員をどのように束ねていく考えか。
 神田 組織としてよりよく機能するには、個々のモチベーションが大事。人口減少が進む中で、一人の職員がより多くの仕事を担うことになるだろう。結果的には、これまでの町政を継承しているように見える部分も多くなるかもしれないが、基本的には(既存の枠組みにとらわれない)ゼロベースでいきたいと考えている。

 

 ──リーダーとして、町外に「住田らしさ」をアピールしていく方向性は。
 神田 まず、発信の目的が大事。人口減を少しでも食い止めるものでなければいけない。モノの売り込み、インバウンド促進などアピールの手法はいろいろあるだろうが、目的の柱をしっかりと立てたうえで進めたい。
 例えば、古里に戻りたいと思っている人は多くいる。どのような情報を出し、どう手をさしのべるべきか。町外に出た多くの若者が集まる成人式での発信のあり方も、考えていくべきだ。(佐藤壮)