落雷の名木 親鸞像に、チェーンソーで彫刻/住田・浄福寺

▲ チェーンソーによる彫刻を担う栗田さん=世田米・浄福寺

 住田町世田米の浄福寺(多田俊宏住職)で22日から、約20年前に落雷被害を受けたモミの立木を生かし、チェーンソーアートによって親鸞聖人像を制作する作業が始まった。古くから親しまれてきた名木を後世に受け継いでいこうと、チェーンソーカーバー・栗田広行さん(43)=山形県室川町=がエンジン音を響かせる。樹齢約400年で、作品は高さ7㍍前後に及ぶ大作。制作は今後10日ほど続き、午前9時~午後4時に行われる作業風景は公開される。

 

作業風景を公開、関係者の念願叶う


 世田米中心部を南方向に見渡せる高台にある浄福寺。本堂脇に伸びるモミの木はかつて、高さ20㍍超を誇っていた。
 平成6年3月には、町森林公園調査事業推進会議の名木・古木調査チームが「優れて大きい名木」として取り上げたこともある。多田俊一前住職(82)らによると、20年ほど前に落雷被害を受け、上部3分の1の高さまで、らせん状に樹皮がはがれ落ちた。
 その後、シリコン剤注入などが施されたが、枯れる部位が広がるなど影響が徐々に拡大。同寺関係者や地域住民の中では以前から、幹を活用できないかとの声が出ていた。
 こうした中、立木のまま親鸞聖人像として生かそうと、同寺のほか陸前高田市横田町の畠山林業(畠山康男社長)、SUMITAチェーンソーアート杣遊会(そまゆうかい、泉田晴夫会長)が協力。今月から上部を切断し、周囲に作業用の足場が組まれた。
 栗田さんは平成24年、高度な技術と個性あふれるチェーンソーアート作品を仕上げるカーバーたちが集結した杣遊会主催の「モンスターカップ」に参加。役場前に置かれている五葉山火縄銃鉄砲隊像も、栗田さんが仕上げた。
 初日は午前9時ごろから作業に入り、まずはモミの立木前で静かに合掌。チェーンソーを手にし、高さ約10㍍ある立木のうち、上部2㍍ほどを削る作業から始めた。栗田さんがエンジン音を響かせ、青空の下で木の粉が舞うと、多田前住職は「こういう風に活用されるのはうれしい。縁に感謝している」と話した。
 親鸞聖人は、浄福寺宗派である浄土真宗の宗祖。同寺にはこれまで、親鸞聖人像はなかったといい、多田住職(51)は「地域を見守っていただきたい。住民の皆さんには、お念仏を広めた思いやご苦労を偲んでいただければ」と期待を寄せる。
 栗田さんは「周囲の風景にも合った叙情的な作品が望まれている。100%健康体の木ではなく、だいぶ傷みが進んでいる。やってみないと分からない不安はあるが、どういう形に仕上がるか自分でも楽しみ」と語る。
 作業は10日間ほど要する見込み。現場付近でも見学できるほか、役場などがある中心部からも目にできる。栗田さんは「日々の変化を、皆さんに見守ってほしい」と話す。
 サポート役に回る杣遊会は結成8年目。泉田会長(65)は「『この山には昔、立派な木があった』ということを示す彫刻をやっていこうと活動が始まった。立木の彫刻にかかわるのは初めてで、念願だった。地域に親しまれる作品となれば」と、思いを込める。