広田町に〝地産〟アート、NPO法人SETが設置/陸前高田市(別写真あり)
平成29年9月13日付 7面
陸前高田市広田町のまちづくりに携わるNPO法人SET(三井俊介代表理事)はこのほど、同町の高台2カ所に〝広田産〟のアート作品を設置した。SETの大学生メンバーの発案を受け、地元住民たちが若者と一緒になって作り上げたもので、広田の風景に新たな彩りを生むとともに、そこで暮らす人々の心にもさわやかな風を送り込んでいる。
まちに新しい風と彩り
絞り模様が染め上げられた、5色ののれん。「かぜいろほ」と名付けられたこの作品は、同町中沢浜地区の高台に造成された宅地に飾られた。ウニの殻、タマネギの皮、ブルーベリー、赤しそなど、同町でとれる海産物や「浜野菜」を使った草木染だ。泊漁港が一望できるロケーションにあり、海から吹く風が布地をやさしく揺らしている。
一方、同町泊地区の高台宅地には、アワビやホタテを磨いて装飾した木製ドアのアートを設置。これらの作品は8〜9月にかけての8日間、同地区にある「いこいハウスとまり」で作られ、学生と広田町民ら延べ30人余りが携わった。
中心となったのは、慶応大学4年でSETメンバーの島山怜さん(23)。同法人が地域の魅力再発掘・課題解決研修として春・夏に展開する「チェンジメーカープログラム」で、島山さんがリーダーを務めていた時、流木とホタテを使った写真立てなどを制作し、地域の人とともに取り組む「ものづくり」の魅力に開眼したという。
今回は「広田イズム(広田主義)」を表現する場として、「アトリエizm」と銘打ったプロジェクトを立ち上げ。「広田で手に入る素材を使い、広田の人々と作る」という以外テーマは自由とし、学生と町民が協力して作業にあたった。制作期間中、いこいハウスには近隣住民も自然と立ち寄り、その場で仲間に加わる場面も多くみられた。
柔軟な発想を持つ若者がアイデアを提供し、年長者らはそれを実現するための知恵や技術を授ける。染めや「絞り」の作り方、裁縫、大工仕事のやり方など、町民たちが〝にわか教師〟を務めることで、世代間のコミュニケーションも活発となった。
地元住民は、つちかってきた経験を生かして何か教えられる喜びや、自分たちのかかわったものが作品として形になる楽しさを満喫。ドア作品のほうは、これから町民と一緒にタイトルを考え、そのコンセプトも共有することにしている。
二つのアートが飾られたのは、漁港沿いのメーンストリートから一本奥に入った住宅地。いずれも潮風を感じられるところだ。背景には、「普段、車で通り過ぎてしまうだけの場所で足を止め、地元の風景を見つめ直してほしい」という企画者たちの思いもある。
「のれん」と「ドア」。どちらも〝入口〟であると同時に、風を呼び込むもの、風が吹き抜けていくもののシンボルだ。のれんに「かぜいろほ」と名付けたのは、「海からの風が吹く広田という場所、そして、若い人たちが呼ぶ新しい風、この二つを象徴している」と同法人の岡田勝太さん(25)。船とかかわりが深い地域であることから、「ほ」には「帆」の意味も込めた。
広田のものを使って染められた広田の「色」が風となってはためくことで、町内に彩りと潤いを生み、地元を改めて見直すきっかけにしてもらえれば──岡田さんたちは「この〝入口〟を通って広田に吹く風を感じてほしい」と願う。
作品は基本的に常設展示だが、雨天時はのれんを撤去する。また、両作品は10月に開催される町民文化祭へ出品。通常、作品は会場である広田地区コミセンに飾られるが、両作品に限っては、見物者に現地へ足を運んでもらうという形をとる。さらに同文化祭では、SETが草木染ワークショップをコミセンで実施するなど、これまでにない取り組みも行うことにしている。