精神疾患に正しい理解を、こころのフォーラムで夏苅氏(静岡県)が講演/大船渡

▲ 夏苅氏の講演が行われた「こころのフォーラム」=総合福祉センター

 大船渡市の「こころのフォーラム2017」は17日、盛町の総合福祉センターで開かれた。医療法人社団峻凌会やきつべの径(みち)診療所(静岡県焼津市)の児童精神科医師・夏苅郁子氏が講演を行い、家族、当事者、精神科医の立場から心の病と向き合ってきた経験談を通し、精神疾患への正しい理解を呼びかけた。
 フォーラムは、家族のつながりを軸に地域での精神障害への理解を深めようと開催。市民ら約90人が参加した。
 講師の夏苅氏は、母親が統合失調症を発症し、自らも精神科で通院治療した経験がある。「家族・当事者・精神科医の三つの立場を経験した私から、皆様にお伝えしたいこと~心の病の正しい理解のために~」と題して講演を進めた。
 この中で、夏苅氏が10歳ごろ、夫婦関係を発端に母が統合失調症を再発し、家出や自殺未遂を繰り返し、夏苅氏が病気を患っても放置していたなどの当時の様子を紹介。夏苅氏は親への不信感などから手に職をつけようと医学部へ入学したものの、母の病を学んで自らの未来を絶望視し、リストカット、過食や拒食、2度の自殺未遂などを図り、精神科で通院治療を受けたとした。
 精神科医になったいきさつでは、「やっと卒業したがどこにも入局できず、結局、主治医だった教授の計らいで精神科に入局した」と、精神科医療に助けられたといった理由ではなかったと説明。医師となってからは、「母と同じ統合失調症の患者を診察したくない気持ち」「医師としてあるべき公平さを保てない」という二つの葛藤を抱えたとした。
 そんな中で、同じように統合失調症の母を持つ漫画家の作品をきっかけに、自らのことを公表しようと決意。全国で話す機会も増えて応援の声が届き、断絶していた母とも再会して晩年を見届けられたとした。
 夏苅氏は三つめの葛藤として、精神疾患の原因そのものが十分に分かっていないために「患者や家族に明確な説明ができない」ことを挙げ、最も多い精神疾患である統合失調症の特徴や発症メカニズムを解説。そのうえで、「子どものときから精神疾患への正しい知識と理解が育つよう、教育に取り組むことが最大の予防」「遺伝についての正しい知識を家族も持つことが必要」と語った。
 そして、〝家族に伝えたいこと〟として▽回復には、科学でははかれない予想外の展開もあることを心にとどめ置いて▽少しだけ〝医師に嫌われる勇気〟を持って、たくさん質問を▽患者を支える人々は、人薬(信頼して相談できる人、仲間)と時間薬(回復するまで周囲が焦らず待つこと)をあげてほしい▽人に語り、人に聞いてもらう力を信じてほしい──の4点を呼びかけた。
 夏苅氏の講演を、参加者らは熱心に聴講。質問も行い、心の病により理解を深める機会としていた。