視点/高田・今泉地区の防集移転の課題㊤

再建を困難にする背景は/地価が土地売却価格より高額に

 

 東日本大震災で本県最大となる津波被害を受けた陸前高田市の中でも、広範囲にわたって被災した高田町高田地区と気仙町今泉地区。住民の大半が震災前の居住区域で暮らせなくなったことから、被災市街地区画整理事業による高台、かさ上げ地への土地造成を待ち、防災集団移転促進事業(防集)での住宅再建を目指してきた世帯も多い。しかし、一部では土地購入の原資となる「被災元地の売却価格」を「実際の高台宅地の分譲価格」が上回り、被災者が二の足を踏む状況も。購入を断念して賃借に切り替えても、借地料が想定と比べて高額になるケースもあり、とりわけ高齢住民の間に先行きへの不安が広がっている。ただでさえ再建が遅れている両地区の被災者が、ここへ来て生活の立て直しをあきらめるようなことがあってはならない。住宅再建を困難にしている事情と課題をひもとき、考えられる手立てを探る。(鈴木英里)

 

遅れる住宅再建 さらに困難な壁

 

 両地区における区画整理は、防災集団移転と合わせて実施することで「効果的かつ効率的にまちの復興を実現できる」として始まった大規模事業。高田地区は約186㌶、今泉地区は約112㌶の区域で計画され、それぞれ複数のエリアに高台の住宅団地を形成している。
 土地の引き渡しは平成27年12月、高田地区の高台②を皮切りに始まり、現在までに同地区高台③④、今泉地区高台⑤北、⑥などで建築着工が可能となっている。
 高台の造成完了は、最も遅いエリアで31年度末までかかる予定。25~27年度までに防集団地が形成された市東部の小友・広田・米崎各町や竹駒町などと比べると、高田・今泉地区の復興は相当の後れを取っている。それでも、もともと住んでいた地域での再建を願い、両地区の被災住民はじっとこらえて待ち続けてきた。
 このうち、5世帯以上でまとまって移転する防集での再建を目指すのは、高田地区が79戸、今泉地区が75戸。集落ごとに「高台移転協議会」を立ち上げるなどし、住民の合意形成を図りつつ、市とも調整を行ってきた。
 移転元地は市が買い取り、住民はそれを元手に高台の分譲地を購入する手はずとなっている。
 しかし、移転先によっては購入価格が売却価格の2倍以上となり、100万円単位の大幅な開きが出ているところもあるという。
 高台の造成が進んで不動産鑑定が行われるに従い、こうした状況が明らかになってきたため、市は今年3月、復興基金を活用して独自の「防集促進事業土地購入補助金制度」を創設。購入額から売却額を引き、金額差が100万円以上となる世帯に差額の2分の1を、50万円~100万円未満の場合は3分の1、50万円未満は4分の1を補助し、被災者の負担軽減を図るとしている。 
 両地区で防集による再建を目指す計154世帯のうち、50万円以上の差額が生じるとみられるのは、40世帯ほどという試算だ。大半の世帯では土地の売り買い価格に大きな差は出ないものの、この約40世帯のうち30世帯ほどは、100万円以上の差があると想定されるという。
 差額は、最も大きいところで300万円ほど。この場合、同制度からは150万円が補助される。しかし、中には残りの金額をねん出するのさえ難しい家庭もある。
 今泉地区の高台⑦(30年3月造成完了予定)に移転予定の70代女性は、「売った時は坪あたり2万円だったけれど、分譲価格は坪5万8000円くらい」とため息をつく。
 単価の開きはほぼ3倍。「夫婦ともに70歳を過ぎて借金はできないし、子どもを保証人にしたくない。家の建築費用と老後の蓄えも残しておかないといけないから、買うのはあきらめた」と、借地に切り替える方向で検討。「こんなに差が出ると分かっていたら、7年も8年も待たずに別の地区で再建していた。近くにあるほかの防集団地なら、売ったのと同じくらいか、おつりがくるくらいの値段なのに」と表情を曇らせる。

 

鑑定評価額に住民から不満
 
 高田・今泉の両地区は、もともとの地価が高いエリアだ。商業・公共施設が集う中心市街地に近接していたからである。区画整理事業で造成された高台も、やはり新市街地や今後建設される公共施設がほど近く、また過去の土地取引事例や道路との接面状況などから、不動産鑑定評価額は他の地域と比べ、どうしても高額となる。
 しかし、これについて今泉で防集での再建を目指す被災者らは、「まだ気仙町には商業施設もないのに」「小学校だって、いつかは統合されてなくなり、地価も下がっていくのでは」といい、現在の評価額に対し「納得できない」と不満をにじませる。
 中には「一番最後まで待ってこれでは、『再建しなくていい』と言われているようなもの」と、投げやりな気持ちになってしまう人もいる。
 同市議会では、6月定例会の一般質問、9月定例会の復興対策特別委員会の中でこの問題が取り上げられ、「高田・今泉両地区の不動産鑑定評価額をみると、〝常時の〟土地取引にしかなっていないように思う」などと議員が指摘。「被災者の状況が考慮に入れられていない。防災集団移転は、被災者の生活再建を促すためのものであるはずでは」と問いただす場面もみられた。