学校を地区復興の〝旗印〟に、気仙小の新築工事安全祈願祭/陸前高田(別写真あり)

▲ 新しい気仙小校舎の透視図
教室は切妻屋根の高い天井となり、大らかで温かみのある雰囲気

教室は切妻屋根の高い天井となり、大らかで温かみのある雰囲気

 陸前高田市立気仙小学校の新築工事安全祈願祭は26日、土地区画整理事業区域の今泉地区高台⑤(気仙大橋西側)にある建設予定地で行われた。周辺の宅地には住宅再建を目指す住民が帰還予定であることから、新しい学校を起点とした地区のにぎわい創出が願われるとともに、地区復興の〝旗印〟としての役割にも期待がかかる。完成は平成30年11月の予定で、31年初頭から児童が新校舎へ通う姿が見られることになる。

 

地域開放のホールも設置

 

 気仙町には震災前、今泉地区の気仙小と、長部地区の長部小の2小学校があった。23年の東日本大震災では気仙小が全壊。同年から長部の校舎を間借りし、両校の児童が同じ教室で合同学習を行ってきた。その後、市教育委員会が震災を受けてまとめた学校の復興構想に基づき、両校は統合。25年4月に「新生気仙小」として開校された。子どもたちは現在、旧長部小校舎で学校生活を送る。
 新校舎建設は災害復旧の位置づけで実施。この日行われた安全祈願祭には、発注者である同市の戸羽太市長や部長級職員、市教委、市議会、同町の関係者、工事関係者らが出席。鍬入れ式を行い、玉ぐしを奉てんした。戸羽市長は「地域に子どもたちの笑い声が戻ってくることを、皆さんが心待ちにされている。気仙町の新しいまちづくりへ向け中心となる施設だと思う」などとあいさつした。
 新しい校舎は木造2階建てで、延床面積は2709平方㍍。このほか、屋内運動場(体育館)、プール棟、ホール棟があり、いずれも建物は切妻屋根。完成予想図を一見すると、複数の建造物が立ち並んでいるようでもある。これには「学校そのものが〝町並み〟に見えるように」という狙いがあり、震災前の今泉地区の歴史的景観にも配慮した、統一感ある外観となっている。
 校舎2階の教室は、屋根の傾斜や梁などがむき出しとなった空間。開放的であるとともに、家庭にいるかのような安らぎ・居心地の良さを演出する。窓枠や床、本棚にも木をふんだんに使用。教室と教室の間には小教室が設けられ、仕切りを開ければ一続きで使えるなど、学習用途に応じた変化が可能だ。
 また、新校舎最大の特徴は、内部が八角形の構造となったホール棟。鉄筋コンクリート造(一部木造)、延床面積204平方㍍で、多目的に使えるホールのほか会議室を備える。カーテンを開ければ、大きなガラス窓からは広田湾や箱根山、奇跡の一本松も一望できるという。
 施工は㈱佐武建設。設計管理は綾井・土屋・IEE(㈱教育環境研究所)設計共同体が担う。安全祈願祭には綾井新建築設計の綾井新代表と、IEEの長澤悟所長も出席し、直会の場で「『学習の場』としてだけではない、地域とともにある学校に」というコンセプトを説明した。
 綾井代表(46)によると、設計にあたっては27年から学校や地区コミセンへ出向き、地域住民らとの意見交換会を計4回にわたり実施。一畳分ほどある大きな模型を示しながら、地域の人々の要望を取り入れ、修正を重ねてきたという。
 仮称で「海のホール」と呼ばれているホール棟も、住民の発案によって生まれた空間。完成後、同ホールは地域に開放され、今泉地区の「けんか七夕太鼓」や、長部地区の「大漁唄いあげ乗付唄」といった伝統芸能を練習したり、披露する空間として、また、ミニコンサートや講演会場としても使うことができる。
 綾井代表は「こちらが思いもよらなかった魅力的なアイデアが、地域の方から提案されたということを、非常にうれしく思う。住民の皆さまがデザインを高めてくださった学校」とその成果を喜ぶ。
 工期は30年11月30日までで、31年1月の新学期から供用開始予定。現在5年生の児童が6年生になった際、3学期の学校生活を新校舎で送り、卒業式を迎えることになる。
 同校の菅野稔校長(59)は、「子どもたちは現在の環境に一言も不満をもらさず、勉強も運動も頑張っているが、条件が整った中で再スタートできれば大きな弾みとなるだろう。子どもたちの元気は地域の元気につながる」と完成に期待。
 さらに、「ホールは地域の文化施設として開放する方針。中には太鼓を常設し、いつでも皆さんにたたいていただけるようにする。小学校が新しい気仙町の〝センター〟として機能し、新たな地域を一緒につくりあげていけるようであれば」と願った。