暮らしに生かすために、「住田の蔵の相談会」初開催
平成29年10月22日付 2面
住田町が主催する「住田の蔵の相談会」は21日、世田米のまち家世田米駅蔵ギャラリーなどで行われた。昭和橋周辺には土蔵が多く現存し、住田を代表する景観として親しまれている中、保存・活用に向けた新たな取り組みにつなげようと、初めて開催。参加者は全国的にも誇るべき蔵並みの素晴らしさを再認識しながら、蔵が伝える地域文化や歴史の奥深さに理解を深めていた。
町が町並み保存やまちづくり構想を打ち出してきた一方、町内には有効活用されないまま放置・解体される土蔵が見受けられる。希少価値を再確認しながら今後の取り組みに生かそうと企画し、県内外から約30人が訪れた。
冒頭、横澤則子企画財政課長は「蔵のある風景は、住田らしさを象徴している。東日本大震災以降は、気仙大工の技が残る街並みとして、注目度が高まっている」とあいさつ。基調講演では、藤田洋三氏(蔵の鏝絵研究家、写真家、ライター)が講師を務めた。
蔵文化として土蔵にしっくいで描かれる鏝絵にふれた一方、住田の蔵には華美な装飾が見られないとし「計算されたモダニズム。蔵並みのラインが統一されている」と評価。「放っておくと消えてしまうような美しさがある。そういう空間を次の世代に残していくだけで、十分なメッセージがある」とも語った。
古い建物を再生しながら活性化を図るまちづくりの方向性や、外国人からの関心が高まっている現状にも言及。「みがけば重要文化財になっていく」とし、地元住民が昔の暮らしぶりや文化を見つめ直すことで、価値や評価が高まっていく流れにもふれた。
後半のパネルディスカッションでは、まち家世田米駅の蔵改修時に指導にあたった薩田英男氏(建築家、㈲薩田建築スタジオ代表)がコーディネーターを務めた。パネリストとして藤田氏と小林隆男氏(左官、江州左官土舟代表)、小林澄夫氏(雑誌「左官教室」元編集長)が発言し、幅広い視点から蔵文化の奥深さを伝えた。
小林澄夫氏は、世田米では「ナマコ壁」の角部分が、船首のように高く持ち上げられた意匠が多く見られ、全国的にはない特徴と説明。終了後は商店街沿いを歩いての「蔵めぐり」も行われ、参加者は一つ一つ工夫が凝らされた造りをじっくりと見学した。
町は29日(日)に役場で開かれる町産業まつりで、子どもたちに蔵の材質にふれてもらおうと「土団子づくり」を企画。小林氏と薩田氏、近畿大学建築学部助教の山田宮土理氏がアドバイスする。
また、まち家世田米駅にある蔵の1棟で傷みが進んでいることから、今月から安全対策に着手する方針。町はこうした取り組みを広く示し、蔵を再活用する動きにつなげる。