第48回衆院選を振り返る/勢力図に変化の兆し、気仙でも自民勝利

▲ 通算9選を喜ぶ鈴木氏(中央)。気仙2市1町ではいずれも相手候補を上回る得票だった=22日、滝沢市で

 22日に行われた第48回衆議院議員選挙。気仙を含む岩手2区は自民党の鈴木俊一氏(64)と希望の党元職の畑浩治氏(54)の一騎打ちとなり、現職閣僚でもあり与党としての強みを訴えた鈴木氏に軍配が上がり、通算9選を果たした。小選挙区の区割り改定、連続6選で圧倒的な強さを誇ってきた黄川田徹氏(64)=民進党、陸前高田市=の勇退など、衆院選をめぐる気仙の環境は大きく変わった。この中、旧区割りで過去に複数回矛を交わしながらも、気仙では〝新顔〟として戦った鈴木、畑両氏陣営。その動きを振り返る。(衆院選取材班)

 

党派を超えた広がり顕著に/鈴木氏陣営

 

 今回の衆院選で鈴木氏は12万9884票を獲得。畑氏を3万票余り引き離し、通算9選を果たした。
 本州一の広さとなった2区は23市町村で構成されるが、気仙2市1町をはじめ旧3区から編入した7市町はすべて、鈴木氏が勝利を飾った。畑氏にリードを許したのは滝沢市と久慈市のみだった。
 これまで、いずれも黄川田氏が強さを誇ってきた地域が軒並み〝鈴木支持〟に流れた。黄川田氏のお膝元で、県議時代から地盤とする陸前高田市でも上回り、自民関係者からも「厳しいと思っていたが…」と驚きの声が聞かれた。
 鈴木氏は気仙3市町で計1万8146票を獲得。比例代表・東北ブロックでは、政権与党の自民は1万1354票、連立を組む公明は2924票で計1万4278票。約4000票の開きがあった。
 前回選と比較すると、小選挙区の自民候補としては3市町で7000票以上伸ばした。一方、比例代表では連立与党の伸び幅は1000票ほど。党派を超えた広がりを裏付ける結果となった。
 開票が行われた22日夜、大船渡市盛町の党支部事務所では鈴木氏大船渡後援会の役員が集まり、当選を喜び合いながら今後の対応を協議した。この中では「以前も黄川田さんに強い支持があったわけではなく、地元という流れの中で推していた」「鈴木さんは現職大臣だから入れたという人も多いだろう」といった発言があった。
 今後の体制について「応援している人の中には、『自民党ではない人』もいることを踏まえた方がいい」との意見も。幅広く参加を呼びかけ、国政報告会を積極的に開催するなどしながら支えるべきとの声が大半を占めた。
 党派を超えた鈴木氏支持の背景にはやはり、東日本大震災からの復興がある。現職大臣で、経験豊富な代議士として、沿岸部の声を国政に届け、実情に合った施策を進めてほしいという被災地からの願いが表れた結果と言える。
 加えて「復興の先」を見据え、ILC(国際リニアコライダー)や五輪関連の産業振興策を期待する層にも浸透。主力魚種の不漁に苦しむ水産業関係者からも幅広く支持を集め、被災地代表として、これまで以上に地元自治体の課題を国政に届け、解決へと導く政治姿勢が求められる。
 国政をめぐっては長く「非自民」が上回ってきた気仙地区のパワーバランスに、変化の兆しが見えた今回の結果。小選挙区の「鈴木票」と比例ブロックで獲得した「与党票」の差について、状況がさまざまとなる各種選挙においては「動きやすい」と見る向きも。しばらくは流動的な状況が続くとみられ、陣営にとっては基盤固めの重要性が増す。

 

「後継」として浸透しきれず/畑氏陣営

 

 畑氏は鈴木氏との通算5度目の対決に敗れ、「前回にも増して(票差が)開き、完敗という感じになった。力不足を痛感している」と語った。選挙戦では各地で「政治生命をかけて戦う」と強調。今後の政治活動については、「2回連続で比例復活にならず敗れた。結果を踏まえて考えていく」と述べるにとどめた。
 同氏後援会の連合会長を務めた田村誠県議は、「解散から非常に期日が短い中で、畑さん本人もしっかり政策を訴えながら地域をかなり細かく回った。いい反応もあったが、相手が現職大臣という流れの中で、厳しい戦いだった」と振り返る。
 畑氏は過去2期を務めたとはいえ、気仙地区をはじめとする新しく選挙区に入った7市町での知名度は、決して高くなかった。そうした中で選勢を左右するのは「黄川田票」であることは明白で、浸透に向けて前哨戦段階から黄川田氏とともに各地を歩き、従前から張り出していたポスターにも「きかわだ徹後継」のシールを加えるなどした。
 こうしてアピールを強めたにも関わらず、少なからずの「黄川田票」が鈴木氏へ傾いた。陸前高田でも小差ながら敗れた。「おらほの代議士」として黄川田氏を支えてきた層には潜在的な自民支持もあったが、同氏勇退で「『たが』が外れて本筋に戻った」と見る向きも。田村県議は「地元としてはかなり強い黄川田さんへの期待があっただけに、時間のない中では後継として浸透しきれなかった」と惜しがった。
 また、平成27年秋の知事選を〝源流〟とする県内4野党の共闘は、民進の希望への合流によって、瓦解とまではいかずも亀裂が走った。畑氏は当初、民進の選挙区支部長で統一候補として出馬予定だったが、公示直前にして希望の公認候補となることが決まった。
 自主投票としたが受け皿となる候補不在の共産などに、共闘のつながりが残っていることに期待し、「希望」を前面に出すことなく戦った同氏。「(希望への合流が)正直、プラスになったことはないだろうと思う」とほぞをかんだ。
 「非自民」の結集の形をどうするかも、今後問われることとなりそうだ。

 

総選挙を経ての課題は

 

 東日本大震災後は「復興に与党も野党もない」と郷土の再生・振興に力を尽くしてきた黄川田氏が勇退。大船渡市出身で24年から比例2期を務めてきた自民前職・橋本英教氏(50)は今回、比例議席獲得に至らず、真に気仙を拠点とする代議士は不在となった。
 市、町議会議員の一部からは「要望活動など、生の声の届き方は違ってくるだろう」との声も漏れ聞こえる。国政とのパイプをいかに再構築していくか。今回の総選挙を経て、復興途上の気仙にもたらされた一つのテーマと言えよう。