「一本松」市の所有に、日本ユースホステル協と協定/陸前高田市(別写真あり)
平成29年11月7日付 1面

陸前高田市と一般財団法人日本ユースホステル協会(山谷えり子会長)は6日、「奇跡の一本松」に関する協定を締結した。これにより、ユースホステル協会が有していた奇跡の一本松などに係る所有権が市に移管。同協会はこれまでと同様、一本松を東日本大震災の惨禍と復興への歩みを伝えるシンボルとし、市とともに災害の教訓を発信していきたいとしている。
根や苗木、木のチップも
締結式は同市気仙町の奇跡の一本松前で開催され、山谷会長と戸羽太市長をはじめ、同協会および市の関係者らが出席。セレモニーに際し、まず震災犠牲者への黙とうをささげた。
山谷会長は「この地が(高田松原)津波復興祈念公園となり、一本松も震災遺構の一つとして公園内に置かれる。この機をとらえ、市に所有権を移すことに決めた」と説明したうえで、「一本松を通じ、復興への思いをさらに広げてほしい。協会としても津波の教訓を国内外へ伝え続けてまいりたい」と述べた。
戸羽市長は「一本松の保存に関しては世の中から大変なご批判も受けたが、あの決断は正しかったと今でも思っている。〝miracle pine tree〟(奇跡の一本松)といえば、震災の象徴として世界中の方がご存知であり、この地域を覚えてもらうため一本松が果たす役割は大きい。これを保存できたのも、協会の皆さまのご理解があればこそ。今後においても関係を末永く持っていただきたい」とあいさつした。
このあと、市建設部の阿部勝部長からこれまでの経緯と協定の概要について説明があり、山谷会長と戸羽市長が協定書に署名。所有権が市に移管された。
奇跡の一本松はもともと、同協会が所有、運営していた「陸前高田ユースホステル」敷地内にあり、平成23年の東日本大震災で被災。高田松原のマツ林がほとんど根こそぎ失われた中で倒れずに残ったが、保護のかいなく同年12月に枯死が確認された。
しかし市は「市民に生きる希望を与えるシンボル」として、世界中からの寄付をもとに保存事業を展開。博物館の展示設計や復元物展示などを手がける東京都の㈱乃村工藝社に委託し、樹高27㍍におよぶ一本松のレプリカを製作した。
防腐処理などを施し、できる限りもとの木を生かしたモニュメントとしてよみがえった一本松は、25年に〝復活〟。被災したユースホステルと合わせて、発災当時に思いをはせるための震災遺構となっており、現在も連日のように見物人が詰めかける。
山谷会長は「皆さんの願いによって再生された一本松は、鎮魂の思いを濃く内外に伝えるシンボル。津波による被害をなくすためにも力を発揮し続けてくれるものと思う」と期待を寄せた。
協定書によると、市の所有となるのは、奇跡の一本松とその根および苗木、保存事業の際に発生した木のチップ。苗木は現在、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センター東北育種場で4本、住友林業㈱で3本の計7本育てられており、このうち市に所有権が譲られたのは6本となる。
市は一本松の根などを今後、高田町の中心市街地に整備される(仮称)一本松記念館で展示する方針。苗木の扱いなどについては今後の検討としている。