視点/住田町・物産館整備を見据えた取り組み

▲ プラットフォームの一環で行われた「すみっこマルシェ」の出店=世田米、今年8月

 住田町観光協会(泉田静夫会長)が1年余り開催を続けた「観光プラットフォーム」では、世田米・国道107号沿いでの観光物産館整備を見据えた取り組みが展開された。地元住民が知恵を出し合いながら望ましい施設や運営のあり方を考える中では、乗り越えなければいけない課題も見えてきた。今後は官民一体となった「オール住田」の体制を築き、住民意見を生かした前向きな動きを続けられるかが問われる。(佐藤 壮)

 

「オール住田」の構築カギに、中心部全体の活気生む役割も

 

 観光プラットフォーム事業は、同協会としては初めての試み。住田の魅力向上や所得向上につなげるための観光振興を見据え、情報交換や検討を行う場として設置された。
 町が定めた町総合計画・人口ビジョン・総合戦略では、観光施策の目標値として交流人口を平成26年の9万7000人余りから31年には15万人に伸ばす方向性を掲げる。その実現に向け、具体的な行動を進めようと議論を進めた。
 28年度は5回開催。トータルコーディネーターを務める認定NPO法人遠野山・里・暮らしネットワーク=遠野市=の菊池新一会長(68)の助言を受け、ワークショップを重ねた。毎回30人前後が参加し、望ましい観光のあり方について意見を交わした。
 「脳みそが汗をかくように」(菊池会長)アイデアをしぼりだし、午後7時から始まった議論が10時を過ぎることも。住田が誇る自然や食、住民力をどう生かすか、参加者は熱心に発言を重ねた。
 出席者の総意として浮上したのは「交通量の多い国道107号沿いに、住田町の魅力や情報のワンストップ拠点となるような観光物産館(仮称)が必要」。交通量データをみると、バイパスが走る世田米大崎─川口区間は、道の駅・種山ヶ原ぽらんがある国道397号と比べ車両通過量は約5倍の多さで推移している。
 本年度は、ワークショップなどを行う会議を9回開催。さらに「すみっこマルシェ」として、町内のコンビニエンスストア駐車場で物産販売を行う出店も試みた。
 出店で見えたのは、町外来訪者だけでなく、地元住民が利用しやすい環境づくりの重要性。地元住民が品々を買い求める光景を目にして、観光客が関心を寄せる光景も見られた。ワークショップでも、総菜やパンをはじめ地域住民に身近な食品類充実を求める声が多かった。
 10月には役場駐車場で行い、隣接する野球場で開催されたクッブ大会と連動。大会参加者が訪れることで、にぎわいを見せた。近隣のイベントや観光資源を組み合わせる重要性が浮き彫りになった。


 

 バイパス沿いでは現在、新たにコンビニエンスストアの整備が進む。トイレ休憩や飲料を購入するといった「立ち寄り」の来訪者を受け入れるためだけの公共施設では、失敗が目に見えている。
 物産館整備について町は、観光プラットフォームの議論内容をふまえ、今後検討していくとの姿勢を示す。観光物産館や道の駅整備は、実現しても全国的に見れば後発組といえるだけに、より丁寧な準備や合意形成が欠かせない。
 どのような組織が運営主体を担うべきかや整備財源、地元農産品や食品加工品をどう確保するかなどの課題整理は、まだ始まったばかり。用地も「107号沿いの中心部」との構想は固まったが「どこに、どのくらいの規模で」の議論は本格化していない。
 実現に向けた動きに向け、大切にしていくべき視点は何か。その一つに「オール住田」が挙げられる。
 毎年開催される住田町夏まつりは、各種団体が参加して熱気を生む。10月の文化産業まつりは町内の逸品が勢ぞろいし、にぎわいに包まれる。こうしたイベント時に生まれるような活気を、常に発信していく覚悟が求められる。
 町内では、豊かな自然環境や文化資源を生かした良質なイベントが多い半面、少人数の運営ゆえに集客が伸び悩み、開催が続かないといったケースも散見される。人口5600人余の小規模自治体だからこそ、町全体で取り組む体制づくりが重要となる。
 さらに「玄関口」という視点も忘れてはいけない。107号沿いの立地であれば、古き良き街並みが残る世田米商店街や気仙川沿いに来訪者を誘導するなど、住田全体の魅力を楽しむ人々を増やす責務が生まれる。
 近年は住民交流拠点施設・まち家世田米駅や町役場など、木造施設の新たな利活用が注目を浴びる住田町。各施設との相乗効果に加え、種山や滝観洞など既存の観光施設にも波及効果が生まれるようなアイデアも欠かせない。
 「観光を良くしていこう」と、1年以上も地域住民が議論を重ねた。そのエネルギーを形にできなければ、住民発の意見が生かされないことで町全体に失望感をもたらしかねない。まだ具体化していないからこそ、町や協会の今後のかじ取りが注目される。