地域材活用 成果と課題は、図書館整備などから学ぶ/陸前高田で利用促進セミナー

▲ 日野氏が図書館整備時の木材利用について説明=陸前高田

 大槌・気仙川流域森林・林業活性化センターと気仙地方林業振興協議会主催の地域材利用促進セミナーは15日、陸前高田市のコミュニティホールで開かれた。基調講演では、今夏にオープンした陸前高田市立図書館の設計担当者が地元材利用の成果などについて解説したほか、新たな木材利活用策として注目が高まっているCLT(直交集成板)に関する情報提供も。出席者はまちづくりへの持続的な地域材活用を見据え、多彩な観点から知識を深めた。


CLTも情報共有 

 

 同センターは気仙、釜石両地域の林業関係機関・団体で構成。セミナーは一昨年、昨年に続く開催で、公共建築物などに対する地域材の積極的な利用促進や、木造技術などに関する理解拡大を目的としている。
 市内外の行政、林業、木工分野の各関係者約40人が出席。冒頭、会長を務める橋本卓博県大船渡農林振興センター所長が「人工林を中心に利用期を迎えている。林業循環を通じた成長、拡大が求められており、公共施設の木造化がさらに進み、発展につながることを祈念する」とあいさつした。
 話題提供では、同センターの岩崎正上席林業普及指導員が木材活用建築の現状を紹介。気仙における平成28年度の木材利用量をみると、公共施設整備や治山・林道など公共工事利用の合計は2331立方㍍に達し、県全体の31%を占めた。復興事業で整備された災害公営住宅などで、まとまった利用が進んだという。
 引き続き、県林業技術センターの後藤幸広専門研究員が情報提供。CLTの特徴や国内動向、施工事例のほか、アカマツ材のCLT利用に向けた研究成果を示した。
 CLTは、スギ材をはじめとしたひき板(ラミナ)が原料。厚板を平行に重ねた集成材とは異なり、厚板を直交させて重ねて大きなパネル材となる。
 近年、中高層住宅や大型商業施設などの床材・壁材などとして利用が進む。後藤氏は強度性能や施工時の省力化といった建築材料としての利点に加え、松くい虫被害対策として皆伐して樹種転換するための加工利用としてアカマツ材研究を進める目的にもふれた。
 出席者からは岩手、気仙におけるCLT加工場立地の見通しを問う声も。後藤氏は「気仙はスギ資源が多く、可能性は高い地域。前向きに検討している動きもあると聞く」と述べた。
 基調講演で講師を務めたのは、㈱INA新建築研究所東日本支社の日野祐プロジェクトマネージャー(53)=大船渡市大船渡町出身。7月にオープンした陸前高田市立図書館の設計を担当しており、同館の特徴や地域産材の活用について解説した。
 商業施設と複合的に整備された同図書館は木造構造。協同組合遠野グルーラムが製材、集成材製造、プレカット加工などを行い、柱や梁などの躯体工事ではカラマツ構造木材約150立方㍍を利用した。
 また、閲覧室の床や外壁装飾、エントランス部分の軒天材には気仙杉を活用。床材は加熱した圧縮プレス装置で長時間圧縮し、硬さを向上させた「つよスギ」と呼ばれる加工が施されている。
 日野氏はこうした実績を振り返ったうえで「地域材を活用した施設づくりは、伐採から製材、加工などすべての工程が組めないことや、需給バランスの不透明さもあり、一般的な木材利用よりも手間がかかるのが現状」と指摘した。
 一方で、地域材活用は住民が施設を身近に感じることができ、雇用や経済面を見据えた効果がある点にも言及。図書館の木造化は、竹駒町に構えていた仮設図書館が木造で、温もりあふれる雰囲気の良さを生かしたかったという。
 今後に向けては「木材流通における川上から川下の連携と、その指示系統を担うコーディネーター的な役割が必要と考えられる」と提言。出席者は終始熱心な表情で聴講し、復旧・復興事業収束後も持続できる地域産材利活用へのヒントを探っていた。