〝延命〟かなわず枯死、天然記念物 「華蔵寺の宝珠マツ」/陸前高田

▲ 枯死判定を受けた国指定天然記念物「華蔵寺の宝珠マツ」。クローン苗木が植栽されることが決まり、指定は継続される=小友町

伐採後クローン苗木を植栽

 国の天然記念物に指定されている陸前高田市小友町の「華蔵寺の宝珠マツ」がこのほど、樹木医による枯死判定を受けた。所有する同寺(畑山祥山住職)による〝延命措置〟もかなわなかったが、滝沢市にあった宝珠マツのクローン木から苗木を用意できることが分かり、「指定木の伐採およびクローン苗木の植栽」という形で文化庁が現状変更を許可。長く地域のシンボルとしてそびえ立ってきた巨木は本年度内に伐採されてしまうが、そのクローンが天然記念物として次の世代へ受け継がれることとなった。

 

「現状変更」で国指定は継続

 

 「華蔵寺の宝珠マツ」は大正15年ごろに植えられたクロマツで、一つの枝に実が重なり合って結実する様子が宝珠のように見えることからその名が付いた。他の地域にある「宝珠マツ」の実が多くて5〜6個なのに対し、最盛期の「華蔵寺の宝珠マツ」は少なくとも30個以上が結実していたことが確認されている。
 これは花性の変異が原因とみられており、学術上貴重な松樹として昭和10年に国が天然記念物に指定。華蔵寺花園会が発行する会報の名称として「宝珠」が使われるなど、華蔵寺のシンボルとして長く地域に親しまれてきた。
 その宝珠マツに異変が見つかったのは平成27年夏のこと。枝の一部が枯れて赤茶けた状態になり、その範囲が広がっていることに気付いた畑山住職(51)が市教委に相談。原因究明に取りかかった。
 幸いにも松くい虫による被害ではなかったが、樹勢が弱まっていると判断し、枯れ枝の剪定や肥料投入による土壌改良などを実施。宝珠マツへの栄養分を確保するとともに、松くい虫の侵入を防ぐ薬を樹幹注入し、樹勢の回復を促した。
 こうした取り組みは今年2月まで続いたが、ついに樹木医による枯死判定を受け、7月6日に枯死に係る診断書を受理。天然記念物である宝珠マツを伐採するため、国指定を解除する方向で話を進めていたところ、国立研究開発法人「森林研究・整備機構」が滝沢市の森林総合研究所林木育種センター東北育種場で育てていたクローン木の順調な成長が確認されたことで、「現状変更(伐採およびクローン苗木植栽)」による国指定の継続が可能となった。
 クローン木は19年2月に収集した宝珠マツの枝を、22年に植え付けしたもの。その枝をさらに接ぎ木したクローン苗木が、新たな宝珠マツとして華蔵寺に植栽される。移動に耐えられるよう、2〜4年間成長させてからの〝里帰り〟となる予定だ。
 「〝命ある天然記念物〟を管理する難しさと、種の保存の大切さがよく分かった」と畑山住職。宝珠マツは数年前、大量に松ぼっくりを落としたことがあったと振り返り、「今思えば、死期を悟っての行動だったのかもしれない。その思いを新しい宝珠マツが受け継いでくれたら」と期待する。