奉仕の心で地道な活動、2月3日に大船渡で顕彰式/第43回東海社会文化賞

地域に寄り添う姿に光


 福祉や文化、教育、産業といった分野で地道な活動を続けている人々を顕彰する第43回東海社会文化賞(東海社会文化事業基金主催)の受賞者が決定した。今回の受賞者は、地区住民からの浄財を地元教育施設に図書購入費として贈る、昭和20年代からの「豆一升運動」を受け継いでいる大船渡市の日頃市地区公民館と、入院患者のサポートや院内美化などの奉仕活動に20年近く取り組んでいる県立大船渡病院ボランティア山吹の会の2団体。受賞者数は今回で71個人46団体となった。顕彰式は、2月3日(土)午後0時30分から大船渡市大船渡町のまるしちザ・プレイスで開かれる。

 

県立大船渡病院 ボランティア山吹の会(大船渡市)
患者と病院の懸け橋に

 

 大船渡病院ボランティア山吹の会(田端五百子代表)は、「地域と一体の病院づくりを」という呼びかけに、主婦を中心とした約20人の市民が応じて平成11年10月に結成された。当初は「大船渡病院ボランティアの会」という名称で活動していたが、震災後に現在の名称となった。
 結成以来、病院の運営をサポートしながら、患者と病院の懸け橋となる活動を幅広く展開。会員は最大で40人ほどにまで増加したが、ここ数年は高齢化や東日本大震災の影響もあって会員の退会が続き、現在は8人で活動している。
 会員らは、都合のつく日に病院3階のボランティアルームを訪れ、亡くなった患者の顔にかける「エンジェルシート」などの縫製や院内に飾る花の生け込み、外来診療のエスコートなど、それぞれの得意分野でボランティア活動に励む。他団体の協力を受けながら、入院患者の食事のお膳に添えるためのカードづくりなども行っている。
 エンジェルシートを担当している菊池幸子さん(76)=大船渡町=は、小学校教員を退職後の13年に入会。以来、ごみ袋を仕分けする活動を担当していたが、震災後からミシン担当となり、エンジェルシートを作り続けている。
 〝相棒〟の平山フクミさん(84)=同=が裁断を担当し、菊池さんがミシンで仕上げる。昨年は1月から11月までに約420枚のエンジェルシートを製作したという。
 菊池さんは「エンジェルシートは、亡くなった方へのプレゼント。『見えないところだから手を抜いてもいいや』ではなく、『なんぼでもキレイに仕上げたい』と思いながら作っています」と、日々真剣な表情で作業に臨む。
 また、及川久美子さん(58)=同=は、薬の副作用で髪が抜けたがん患者のための布帽子づくりや入院患者が使う尿器カバーの製作を担当。
 会員は、和気あいあいとした雰囲気の中、「誰かのために」と奉仕の心を持って作業に当たっている。
 自身は外来患者のエスコート役を務めている田端代表(82)は「来院した患者さんに『いてくれてよかった』と言われるのがうれしい。健康で歩けるうちはこの活動を続けていきたい」と話していた。

 

日頃市地区公民館(大船渡市)
豆一升運動、60年余の歴史守る

 

 日頃市町内の各戸から豆を一升ずつ集めて歩き、換金して地元の教育施設に図書購入費として贈る「豆一升運動」。昭和26年、日頃市婦人会がスタートさせたこの取り組みは、時代とともに形を変え、現在は日頃市地区公民館(船野克之館長)が継続。活動を通じ、子どもたちの未来を思う戦後の住民らの精神を今に伝えている。
 小中学校に図書が不足していた戦後、発足したてだった同婦人会の会員が、農家を回って一升分の豆を集め、町内にあった豆腐店に集めた豆を売り、図書購入費の資金に充てた。同40年ごろからは、豆をつくる家庭が減ったことなどから、豆一升の代わりに一戸あたり現金300円の協力を求めている。
 豆やお金の提供は強制ではなかったが、これまでほとんどの町民がこの運動に協力してきた。 
 戸数の多かった運動開始初期、日頃市小学校と日頃市中学校、日頃市保育園に贈られた図書購入費は合わせて約20万円。現在、町内全13地域公民館を通して寄せられる〝募金〟は年額17万円ほどだという。運動開始から66年。これまでに贈った図書購入費の総額は1100万円を超える。
 第2次世界大戦後、食料や燃料などあらゆる面で困窮した日本。その中にあって、「物が不足しても、心の豊かさは失ってはならない」という婦人会員らの思いが地域に通じ、結束を高めた。
 空いた棚を埋めていった数々の本は、子どもたちの心を満たし、現在の学校教育を支える一助となっている。各校で活発に行われている読書推進活動も、その恩恵の一つだ。
 同運動について、「こうした活動は、どこかのタイミングで〝もうやらなくていいんじゃないか〟という声があがり、終わってしまっても不思議ではない。それが今も続いているのは、運動開始当初の婦人会の〝精神〟が、地域住民に受け継がれているからではないか」と語る船野館長。
 「市内では、生徒数の減少で中学校の統合の話もでてきている。運動の内容はこれからも変化していくと思うが、先人の思いを受け継ぎぜひ続いていってほしい。〝豆一升、読書一生〟で、目標に向かう子どもたちを手助けしていければ」と願っている。