視点/災害公営住宅の家賃割り増し㊤

該当は「収入超過世帯」のみ
県が新年度からの減免措置も発表

 

 県はこのほど、災害公営住宅の家賃減免に関する措置を発表した。平成30年度から、世帯収入が月額15万8000円を超える「収入超過世帯」の家賃が割り増しとなる団地が出始めるが、これに「上限額」を設けるという内容。同じ間取りでも、建設にかかった費用に応じて団地ごとの家賃に大きな開きが生じていることから、公平性の担保と被災者の負担軽減のために講じられた措置だ。大船渡、陸前高田の両市は新年度から県の基準に沿った対応をとる考えを示している。一方、「収入超過世帯」の条件には該当しないにもかかわらず、「家賃の値上げ」とだけ聞いて不安を覚える入居者もみられる。このため、制度について正しく知ることや、住民の疑問に対し行政側がきめ細かく対応していくことも重要となる。(鈴木英里)

 

低所得世帯等には影響なし

 

 まず前提として明確にしておきたいのは、災害公営住宅の入居世帯すべての家賃が今後値上げされていくわけではなく、「対象者は限定されている」という点だ。
 この対象となるのが「収入超過世帯」。▽世帯全員の所得総額が月額15万8000円(高齢者や障害者、就学前の子どもがいる世帯などは21万4000円)を超える▽入居開始から丸3年が経過──の2点に該当する世帯だ。
 言い換えれば、月額所得が15万8000円未満であれば、家賃の値上げは行われない。年金だけで生活する高齢者や、低所得の世帯からも、「3年以上住むと家賃が上がるのでは」と懸念する声も聞かれるが、そうではない。
 県や市町村といった自治体が運営する「公営住宅」はそもそも、住まいに困窮する人々のため、低廉な家賃で貸し出される。低所得世帯や、高齢者、障害者、就学前児童がいる世帯などに対しては、自治体ごとの減免措置、控除等もある。
 災害公営住宅はいわば〝特例〟の公営住宅であり、こうした条件を問わず、震災で住まいを失った人であれば入居できる。
 ただし、被災者救済のために建設された災害公営住宅といえど、根本は市営住宅と同様。「より生活に困っている人へ貸し出す」という目的に変わりはなく、被災者特例としての〝猶予期間〟が与えられるのは3年目までとなる。一定の基準を超える収入(=15万8000円、または21万4000円以上)がある世帯に対しては、4年目から自力で住宅を探す努力が求められ、家賃も割高になっていく。
 値上げは入居開始4年目からだが、家賃の額は4年目よりは5年目、5年目よりは6年目と、所得に応じて段階的に高くなっていく。収入が多ければ多いほど、その上昇率は急激なものになる。
 県内では本年度から入居開始3年が経過した災害公営住宅が出始めたことにより、こうした急激な値上げに直面する被災者がいる。さらに、「収入超過世帯に対する家賃の差額が、団地によって大きく異なる」という点も問題として浮き彫りとなってきた。
 釜石市の災害公営住宅・県営片岸アパートでは、収入超過世帯が3DKに住んでいた場合、入居3年目までは家賃の最大が6万1000円だったのに対し、4年目からは最大で14万5400円と算定される。一方、最も早く完成した同市の県営平田(へいた)アパートでは、同じ間取りでも、家賃の上限が7万7400円となっており、同じ災害公営住宅でも6万8000円もの違いがある。
 このような急激な負担増の緩和、被災者負担の均平化を図るべく、県は今回、県営の災害公営住宅における減免措置を発表したが、その内容と家賃差が生じた背景を説明するにあたっては、「近傍同種家賃」という言葉について説明しておかねばならない。


最も安い家賃水準に合わせ減免

 

 一般的に「近傍同種家賃」は、公的住宅の家賃を定める際、民間賃貸住宅の事例を収集したうえで、建物の構造の違いや規模の大小、建設年代の差、駅への近接性といった立地の違いなどについて相互比較したうえで算定されるものだ。
 字義通り、その建物の「近傍」にある民間の賃貸住宅と「同種」程度の「家賃」のこと、ともいえる。
 だが、災害公営住宅の場合は少し定義が異なり、「その建物の建設に要した費用」から算定されることになるのが特徴だ。
 被害が広範囲におよんだ東日本大震災では、各地で同時多発的に「建設ラッシュ」がやってきたため、作業員不足や資材確保などによって建設費が高騰した時期がある。
 建設費が上がる前に建った団地と、高騰してから建った団地とでは、同じ規模でもコストに差が生じる。片岸アパートと平田アパートのように、収入超過世帯の家賃に倍近い開きが出るという状況が生まれたのは、「近傍同種家賃」の算定が建設費用に応じて計算されたからである。
 県が4月から導入するとしている家賃減免制度は、一口に言うと「収入超過世帯の家賃の上限を、一番安い平田アパートの水準に合わせる」というものになる。
 平田アパートが完成した25年はまだ、建設コストが〝平時〟の状態だったとし、災害公営住宅建設事業の過渡期に建設されたほかの団地についても、「〝平時〟であればもっと安い費用で建てられた」とみなしたうえで、平田における家賃上限を、ほかの県営アパートのすべての間取りで適用することにしたのだ。