現職の戸羽氏 任期残り1年切る、次期市長選 「復興完遂」へ意欲も/陸前高田
平成30年2月24日付 1面

戸羽 太氏
陸前高田市の戸羽太市長(53)の任期が、残り1年を切った。1期目就任直後の平成23年3月に東日本大震災が発生。2期目の27年からは、かねて標ぼうする「ノーマライゼーションという言葉のいらない」をふまえた復興まちづくりに取り組んできた。23~30年度の計8年を計画期間とする震災復興計画について、「計画を立てた責任がある。やり遂げさせてほしい」と訴え2期目の当選を果たした戸羽氏。次期市長選については、「私の考えより、市民がどう思っているかが重要。皆さんの声を聞いていきたい」と明言は避けたが、「求めていただけると感じた時には、自ら『出る』と決断するだろう」と、続投の意欲もあることをうかがわせた。
態度表明は秋ごろか
戸羽氏は平成7年から3期にわたって市議を務めたあと、当時の中里長門市長に請われ、19年3月、同市の助役に就任(同年4月から副市長)。2期8年で勇退した同市長=23年8月死去=の後を継ぐ形で23年の市長選に立候補し、県議を辞して臨んだ菅原一敏氏(当時66)との無所属新人同士による一騎打ちの結果、8600票を獲得して初当選を果たした。
しかし、初登庁からわずか25日後の同年3月11日に東日本大震災が発生。人口の1割近い1700人以上の市民が死亡・行方不明となり、多くの市職員と自身の家族も犠牲に。市役所が全壊し行政機能の保持さえ困難だった中、インフラ復旧の推進、復興計画策定といった重責を担ってきた。
復旧・復興事業が過渡期を迎えていた27年には、「復興計画はまだ半ば。あともう1期続けさせてほしい」と再出馬。元医療法人職員で無所属新人の橋詰清氏(当時48)が「復興計画後の展望が見えない。このままではまちが立ち行かなくなる」と訴え雌雄を決することとなったが、戸羽氏は9275票を獲得。橋詰氏に6282票の大差をつけて再選を果たした。
復興展開期に入った2期目は、被災者の住まい再建や防潮堤、避難道路の整備といった防災にかかる事業に注力する一方、「持続可能なまち」を見据えた〝ソフト面〟の強化が重要であると強調。トップセールスとして国内外に陸前高田産品の売り込みを図っているほか、民泊事業の推進、海外からの訪日旅行者の誘致(インバウンド)などにも積極的な姿勢を見せ、「交流人口の拡大」を重要施策として前面に打ち出す。
まもなく復興計画最終年度である30年度を迎え、同年度内である来年2月に今の任期を終える。この3年を振り返って戸羽氏は、「少しずつまちの形は見えてきたが、被災跡地の活用などなかなかスムーズに進んでいない部分もある」と課題を挙げる。
区画整理事業をはじめ、運動公園や市役所新庁舎の整備など33年までまたがる事業も多い。新庁舎の建設位置については、議論の段階で市民の意見が大きく二つに割れたこともあり、双方が納得できるような庁舎機能の検討と安全対策も求められている。
次期選挙については「私が『やる・やらない』を決めるのではなく、これまでの市政を市民がどう評価するかということ。しかるべきときに後援会や市民団体の声を聞いて決めたい」とし態度は保留したものの、自らが掲げた施策推進と復興完遂のため、3期目挑戦の可能性があることも示唆した。
中里市政を支え、戸羽氏初当選の原動力となった市民団体「あたらしい陸前高田市をつくる市民の声」(菅野隆介会長)は今月上旬、戸羽氏との「語る会」を開催。そこでは次期市長選についての話はなかったという。同団体は中里前市長の時代から、市長選前年の秋までに内部の声をとりまとめて政策提言とし、擁立したい人物へ「推薦状」とともに手渡して出馬要請してきた経緯がある。
直近3回の市長選挙においても、出馬の動きが本格化したのは選挙前年の秋以降。立候補経験者を含め、現職以外でも表立った動きは現在のところ見られない。前回立候補した橋詰氏は「現在の市政に思うところはあるが、選挙について今はまったく考えていないし、周囲からも(出馬に関する)話は出ていない」としている。
市議の中には「このまま無風状態でいくのでは」とみる向きもあり、「選挙はあったほうがいいが、戦えば必ず市民を二分する状況になる。復興をまだなしえていない中で、その戦いをすべきなのかというと疑問」との声も。一方で、「今は市長に対してものを言いにくい空気がある。反対意見も含め、多様な声をどう聞いていくのかを考えていかねば、市民が市政に〝あきらめ〟を持ってしまう」と危惧する議員もいる。
東日本大震災からまもなく丸7年。復興計画登載事業は来年度内で73%まで完了予定であり、ハード面の整備は終わりが見えてきた。しかし、市外避難者の帰還が実現しない状況が続き、人口流出に歯止めがかからない。次期市長選では、復興計画を総点検したうえで新たな課題を洗い出し、事業完了後を見据えたまちづくり施策をどう打ち出していくかが争点の一つとなることは間違いない。