一貫システムで水素供給、再生可能エネ生かしフォークリフトに活用/けせんプレカット住田工場
平成30年3月29日付 1面
けせんプレカット事業協同組合(佐藤實代表理事)の住田工場=世田米=に、国内の林業・木材業界では初となる燃料電池フォークリフトと簡易型水素供給設備が導入され、28日に現地で導入記念式典が開かれた。環境省による「再生エネルギー等を活用した水素社会推進事業」を活用。水素供給設備を動かす電力は主に工場内の太陽光パネルから確保し、水素製造時から一貫して二酸化炭素をはじめ環境負荷物質を出さないシステムを整えた。木質バイオマスエネルギーの活用も含め、今後、身近な資源で独自にエネルギーをまかなう設備を生かした産業の広がりが期待される。
導入記念式典には、組合理事や行政関係者ら約100人が出席。佐藤代表理事は「関係者や工事に関わった方々のご尽力があってこそ。気持ちを新たに、より一層努力していく所存」と述べた。
引き続き、泉田十太郎専務理事が経過報告。同組合はこれまで、木材を加工して住宅部材として都市部に供給することで、二酸化炭素排出削減に貢献してきたと総括したうえ、「山からの湧き水と太陽光発電による電気を使って、水素をつくることに挑戦する」と語り、新たに農業分野でも活用する方針を示した。
環境省東北地方環境事務所環境対策課の吉澤友秀課長、神田謙一町長、県環境生活部の津軽石昭彦部長がそれぞれ祝辞。水素供給設備前では、来賓らによるテープカットに続き、フォークリフトへの水素供給の実演が行われた。
燃料電池フォークリフトは㈱豊田自動織機製で、トヨタL&F岩手㈱が納入を担当。
導入は東北では初めてで、国内の林業・木材業界でも先駆けとなる。
米国・PDC社製の水素供給設備「Simple Fuel(シンプルフューエル)」は、JA三井リース㈱と東京貿易メカニクス㈱が担った。国内での導入は今回が第1号という。
環境省による水素社会推進事業は、二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金制度の一つ。助成を生かしたリース契約により、組合負担は維持・管理も含めて年間1000万円程度という。
同組合では一昨年からフォークリフト導入の検討を進め、昨年、環境省と連携している一般社団法人低炭素社会創出促進協会から事業採択を受けた。今年1月から、住田工場内で太陽光電池パネルや水素供給設備機器の設置工事を進めてきた。
導入した燃料電池フォークリフトは、稼働時に二酸化炭素や環境負荷物質を排出しない環境性能に加え、3分程度で燃料充填が完了する。
水素供給設備は、アルカリ水電解から精製、圧縮、蓄圧、充填の各機能をまとめた簡易型。設備に加え、湧き水を純水にする処理機器の電力は主に、太陽光発電から確保する。
これまで水素は、二酸化炭素を出さない新たなエネルギーとして注目されてきたが、化石燃料から製造する場合が多い。水電解にも大量の電力を必要とし、再生可能エネルギーを連動した設備が求められていた。
豊田自動織機によると、フォークリフトの水素搭載量は1・2㌔で、稼働時間は8時間。シンプルフューエルは1日に水素2・7㌔を生産できる。プレカットでは平成30年度に、同じフォークリフトをもう1台導入する計画。
すでに試験稼働を行っており、フォークリフトは工場内での製品運搬などで活用。
住田工場の佐藤誠工場長(37)は「何より、運転時の音が静か。一般的なフォークリフトとも遜色ない」と語る。
導入への調整に尽力してきた㈱豊田自動織機技術・開発本部開発第二部企業戦略グループの鈴木宏紀グループ長(45)は「この設備による水素製造には、端材や間伐材など木質バイオマス由来のエネルギーを生かすことも可能。東日本大震災を受け、こうした地方都市における自立型の電力確保、エネルギー供給の形は目指すべき形の一つ」と、期待を込める。