震災からの歩みに学ぶ、文化政策・まちづくり学校/大船渡で開校記念シンポジウム

▲ 2日間にわたり行われたシンポジウム=リアスホール

 住田町五葉地区内の古民家を生かして多様な学習機会を創出する「文化政策・まちづくり学校」(学長・池上惇京都大学名誉教授)の開校記念シンポジウムは5、6の両日、大船渡市盛町のリアスホールで開かれた。初日は「震災まちづくり学」として、東日本大震災で住居や家族を失った被災者らの体験談、過去の災害や学術的な見地から考えるまちづくりのあり方を共有。2日目はボランティアや地域活動の実践報告などが行われ、参加者は復旧・復興の歩みを振り返りながら、地域に根ざして生きる誇りを見つめ直した。


 シンポジウムは、震災の経験や実践報告から、人々や地域の矜持、地域再生のあり方を学び合おうと開催。両日それぞれ約30人が参加し、気仙在住者にとどまらず関西圏からの出席者も目立った。
 初日のシンポジウムで「あの日、あれから」と題して発表したのは、大船渡市大船渡町の平山睦子さん(62)と三陸町越喜来の及川彌さん(75)、陸前高田市高田町の柴田由人さん(68)の3人。発災以降の自らの行動を振り返り、悲嘆や焦燥などさまざまな感情に揺れながらも日常生活を取り戻した足跡を振り返った。
 平山さんは自宅近くの神社に身を寄せた発災当日や、大船渡中学校体育館での避難生活、同校グラウンドでの仮設住宅暮らしなどを紹介。多くの支援者に励まされた経験にもふれ、「震災の風化は、私たちが感謝を忘れること」と力を込めた。
 及川さんは、自宅で津波にのまれながらも自らの命をつないだ体験を明かし、災害の恐ろしさを強調。震災当日、南米沖で遠洋漁業に従事していた柴田さんは、妻を亡くした悲しみに加え、再び船上での仕事を決断した思いなどを涙ぐみながら打ち明けた。
 いわてGINGA―NET学生スタッフの川原直也さん(22)=矢巾町=は、全国から学生を集め、五葉地区公民館で寝泊まりしながら沿岸部に出向いた同組織の支援活動を紹介。活動の成果として県内でのボランティア組織の充実や、県外での防災・減災の取り組みへの波及などを挙げた。
 三陸町吉浜在住で津波研究者の木村正継さん(71)は、明治、昭和の大津波を教訓とする高台移転によって東日本大震災では住家被害がほとんどなく「奇跡の集落」と称された吉浜の歴史を解説。高台移転を実現させるために住民を束ねた指導者の功績や、先祖からの言い伝えを守り続けた地域の誇りを伝えた。
 引き続き、まちづくり学校の教員を務める金井萬造立命館大学客員教授や、西掘喜久夫愛知学院名誉教授らが発言。なりわいや地域観光の振興、被災者の生活再建やコミュニティー再生を速やかに図るための政策、少子化社会に対応したオーケストラ活動など、多彩な観点から復興施策の視点を発信した。
 池上学長は「一寸先が見えない時代であればこそ、自分の足で立ち、どうすれば危機に対処できるか真剣に考える人たちが増えている。学び合って育ち合うというのはどういう形で進むべきか、みなさまからさまざまな話があった」と総括。都市と農村のいずれでも活躍できる人材を育てる今後の学校運営への意欲も込めた。
 2日目は「地域固有のちから発見」と題して開催。まちづくり学校を共同で構成する拓心全人塾の代表を務め、五葉地区公民館長の藤井洋治さん(68)が基調講演を行い、開設時から運営にかかわってきた「遠野早池峰ふるさと学校」の取り組みを報告した。
 さらにグローカル友好協会の星正会長=兵庫県=が、平成5年からインドで行っている植林プロジェクトの取り組みを紹介。このほか、上有住・天嶽地域構想学などの事例発表も行われた。
 3日に開校したまちづくり学校の入校生は、30~80代の70人。学習内容は震災復興や防災、福祉、建築、教育文化など幅広い領域をそろえる。対面授業に加え、今後はデータベースを生かした通信教育も行う。
 本年度の前期授業は「文化経営学・文化政策」「体験学習論」「地域構想学」などからなり、26日(土)から五葉地区の同学校研究棟でスタート。土・日曜日の2日間を1回とし、12月まで8回行われる。
 授業料は無料で、入校生は随時受付中。問い合わせは同学校の千葉修悦さん(℡080・6019・3328)へ。