「昭和橋」何を受け継ぐか、新橋設計に向け景観検討委設置へ/住田
平成30年6月1日付 1面
住田町と県大船渡土木センター住田整備事務所が主催する初の「昭和橋シンポジウム」は30日夜、町役場町民ホールで行われた。古き良きたたずまいが残る商店街と役場周辺をつなぐ昭和橋は、住民生活を支え続け、世田米のシンボル的な存在でもあるが、治水安全度70分の1(70年に一度発生する規模の大雨、洪水に対する安全)確保に向けた架け替えを控える。シンポジウムでは景観工学の観点による昭和橋の魅力や、2~3月に実施した住民アンケート結果などが示され、住民らは今後の新橋設計のあり方を探った。
初のシンポジウム開催
昭和橋は世田米商店街と役場などがある川向地区を結び、昭和8年に架橋。橋の長さは73㍍。交通可能な道幅は3・2㍍で、一般車両同士のすれ違いができない狭さとなっている。
周囲の蔵並みとともに「古き良さ」「古里らしさ」を感じさせる景観も形成。町中心部に立地し、登下校の児童生徒など一定の歩行利用や車両通行がある。
県は平成26年7月の津付ダム事業中止決定以降、新たな治水対策を進める。昭和橋は、岩泉町などを襲った一昨年8月の台風10号の教訓を受け、前倒しで架け替えることにした。
現在は橋脚7本が支える構造で、橋脚同士の間隔は9・1㍍。架け替えでは橋脚を1本とし、現状よりも橋げたを高くする。
町や同事務所では、現橋への愛着や魅力をどう生かすかを考える資料として活用しようと、2~3月にアンケートを実施。シンポジウムはアンケート結果を報告しながら、今後の設計方針について理解を深めてもらおうと企画し、住民ら40人余りが出席した。
基調講演では、公益社団法人日本技術士会東北本部岩手県支部の村上功氏が講師を務め、台風10号で甚大な被害を受けた岩泉町安家川の事例を説明。流木が橋脚に挟まって水をせき止め、被害が拡大していった経緯などを示した。
引き続き登壇した大日本コンサルタント㈱の池田大樹氏は、景観工学の観点などから昭和橋の魅力を解説。同社は、橋りょう架け替え事業の予備設計業務を担っている。
池田氏は、構造美に加え住民に親しみやすさがあるとし「良い橋だからこそ、その精神を受け継いだ橋を」と言及。今後の視点として▽風景との調和▽地域との共生▽美しいプロポーションと細部デザインの工夫▽周辺の風景を眺める視点場──を掲げた。
後半は、整備事務所職員がアンケート結果を報告。アンケート用紙は、町内全世帯や小中学生に計2099部配布し、931部(44%)の回答があった。
橋利用時の交通手段(複数回答)で最も多かったのは自動車で、総回答数の約60%を占めた。一方、徒歩も25%近くあった。
昭和橋を取り巻く空間の将来の問い(同)では「人が安心して歩ける」が最多で30%。「車が安全に通れる」は24%だった。「川沿いや橋周辺を楽しく徒歩できる散策路」「蔵並みなど景色がよく見える場所」への回答も多かった。
アンケート結果をふまえ、架け替え計画を立案するため、有識者からなる景観検討委員会を設立する方針も説明。現段階では、道幅や歩道設置の有無に加え、どこに架橋するかも定まっていない。
仮に、幅員を広げた橋の整備を行う場合、用地確保に加え町も財政負担しなければならない。委員会には、橋の全体形状の検討課題に加え、架け替え計画に関する方向性、高欄や照明などの付属物などについて協議を求める方針。県や町は現在、委員の人選で最終的な調整を進めているという。
意見交換では、住民から「散歩をしている時に、後ろから車が来るのではと不安になることがある。子どもが通学し、ベビーカーを押して渡る姿もある。安心して通れる橋を」「景観にマッチした橋を」といった発言があった。
昨年11月に行われた町地域デザイン会議では、県側は工事期間は明言しなかったものの、32年度までとなっている国の社会資本整備総合交付金を活用したい意向を示している。住民からは「スケジュールありきの設計になっていないか」との指摘があり、住田整備事務所の加藤伸三所長は「(設計は)来年度にもかかるだろう。議論によっては委員会を開催する回数も増えてくる」と述べた。