大船渡工場は操業維持、再生法申請の「タイサン」

▲ 民事再生手続開始を申し立てた太洋産業(平成25年3月、大船渡工場復旧竣工時の様子)

水産業界長年けん引 


 大船渡市を創業地とする水産加工販売の太洋産業㈱(本社・東京都中央区、松岡章代表取締役)が、9日に東京地裁へ民事再生手続開始を申し立てた。大船渡工場の操業や雇用は維持する方針だが、「タイサン」ブランドで全国的に知られ、大船渡の水産業界を長くリードしてきた同社のつまずきは地域に波紋を広げており、関係者は今後の動向を注視している。
 同社は昭和19年設立。サンマやサケなどの鮮冷魚や水産加工品を取り扱っており、「鮭フレーク」は人気商品として広く知られる。 民間の信用調査会社、東京商工リサーチ盛岡支店によると、昭和57年12月期の売上高は330億円余。23年3月の東日本大震災で主力の大船渡工場が被災し、北海道の釧路、根室両工場にラインを移すなどしたが生産量は減り、24年3月期の売上高は73億7252万円まで落ち込んだ。
 経常利益ベースではこれ以前の22年3月期から29年3月期まで8期連続赤字と厳しい経営環境にあり、負債総額は約49億円で、うち金融債務が約44億円。被災のほか、近年のサンマやサケの著しい不漁による仕入れ価格上昇も、業績悪化の一因とみられる。
 民事再生手続は、形式上の倒産となるが、原則として手続が開始されたあとも事業は継続できる。申し立てをした債務者は一定の額の債務を分割して返済する再生計画案を作り、債権者集会で同意(議決権行使者の過半数かつ議決権総額の2分の1以上)が得られれば、裁判所が計画を認めるか否かを判断。認められた場合、計画に従った返済をすることで残りの債務が免除されるというもの。認可されない場合は、破産手続きに移行できることとなっている。
 大船渡工場では現在、正社員10人、パート34人(うち9人は外国人研修生)の計44人が勤務。研修生を除く従業員は地元から雇用している。今は通年の鮭フレーク生産と、養殖銀ザケの冷凍加工作業(5~8月)を行っている。
 相原勉工場長によると、9日夕の終業後に本社による従業員に対する説明会が開かれ、解雇せずに操業を継続し、給与もこれまで通り支払うと示されたという。これまでに給与の未払いや遅延は起きていないとしている。
 10日も通常通り操業。相原工場長は「民事再生の手続き申請に関しては、従業員を路頭に迷わせないためと聞いた。雇用や給与について説明があったことで、従業員に動揺はみられていない」と話している。
 同社は大船渡魚市場㈱(千葉隆美代表取締役)の株式総数の10・6%(29年度現在)を持つ大株主で、主にサケの買い付けでも大きな役割を果たしている。魚市場の佐藤光男専務は「震災からの復興に向けて頑張っている中で、大船渡の水産のシンボルともいえる存在が、こうした形になったことは残念に思う」と話していた。
 昭和44年に太洋産業を親会社として設立され、主に保険を取り扱っている赤崎町字諏訪前の㈱たいさん共栄(鈴木敏彦代表取締役)では、平成17年に全株式を引き取り資本関係は解消しているという。
 同社では「当社が不利益を被ることや、お客さまにご迷惑をおかけすることは一切ない」「今後、太洋産業が再生に向けて取り組んでいくことになろうと思うが、力になれる部分があれば協力を惜しまない」としている。
 岩手銀行は太洋産業に対する債権28億9500万円に取立不能または取立遅延の恐れが生じたと、9日付で発表。担保・引当金などにより保全されていない約18億円については、31年3月期第1四半期において引当処理を行うとしている。
 また、大船渡市によると、同社の関係者が10日に市役所を訪れ、戸田公明市長らに説明した。その後、市は庁内に連絡会議を立ち上げ、関係部課で情報共有を図ったといい、「裁判所の監督下で再生を目指すとしており、操業を続け従業員も解雇しないと聞いている。今後の状況を見定め、情報収集に努めたい」としている。
 太洋産業では、債権者に対する説明会を12日(木)に東京都内で開く。