県と吉浜漁協が「沖出し」ルール策定へ、津波襲来時の漁船避難で/大船渡

▲ ルール策定に向けて現地で実証試験が行われた=三陸町吉浜・根白漁港

 大船渡市三陸町の吉浜漁協(庄司尚男組合長、組合員270人)と県は本年度、津波襲来時に漁船を沖合に避難させる〝沖出し〟のルール策定に取り組んでいる。同町吉浜の根白漁港で22日、実証試験を行い、漁港や操業場所から避難海域までの移動時間や距離を測定。今回の試験データをもとに素案を作り、県と漁協で協議を重ねて年度内にルールを策定する。

 

根白漁港で実証試験、年度内の決定目指す

 

 東日本大震災時、岩手、宮城、福島の3県沿岸では、津波から漁船を守ろうと、多くの漁業者が沖合へ船で避難する「沖出し」を行った。そうして被災を免れた一方で、津波の犠牲となった漁業者もいる。
 こうした経緯から、県は漁業者の命を守るため、被災3県では初めて沖出しのルール作りを進め、宮古市の田老町漁協をモデルとして選んで昨年度、ルールを策定。吉浜漁協は田老町漁協に続いて県内2例目となる。
 本年度に入り、6月に開かれた吉浜漁協総会でルール作りについて県側が説明。震災時の行動についてアンケート調査も行い、震災時に実際に沖出しした漁業者の声も聞くなどしてきた。
 この日の実証試験には県や漁協職員、漁業者らが参加。定置網船や刺し網船といった大型船は漁港から沖合5〜6㌔の水深約100㍍地点に想定した避難海域までの時間、避難海域から操業場所への時間、操業場所から漁港までの時間を、小型船は漁港から湾内の養殖漁場までの時間をそれぞれGPSを用いて調査した。
 田老町は、港が外洋に面しているため比較的早く沖合まで船で移動できるが、根白漁港は地形の関係から、田老と比べると湾外に出るまでに時間がかかるという。
 県では9月ごろまでに試験データを取りまとめたうえ、シミュレーションを行いながら10月下旬から11月にかけて素案を作成・提示。その後、県と漁協間で協議を重ね、ルールを策定していく。
 県農林水産部漁港漁村課の阿部幸樹総括課長は「何らかのルールを作らなければ、再び犠牲者が出るのではないかという危惧がある」と話し、「最終的には自分の命は自分で守らなければならないが、自己判断をする際の材料として、ルールが役立つのではないか。船ではなく、人命を第一優先に考えて策定していきたい」と話す。
 一方で、ルール策定について県内では消極的な漁協も多いといい、取り組みの浸透が今後の大きな課題となる。
 阿部総括課長は「各漁協の事情を考えながらそれぞれに働きかけていきたい」としている。
 ルール策定に向け、庄司組合長は「年内、遅くとも年度内には策定したい。最終的には自己判断にはなるが、その際に迷わないためのルールは必要。漁業をやっていくためには船が必要だが、人命を第一に考えながら協議を重ねて、吉浜漁協に合ったルールにしていきたい」と力を込める。