創業の地で継続かなわず、破産に移行の「タイサン」が従業員32人を解雇/大船渡

▲ 破産への移行が決まった太洋産業の大船渡工場=大船渡町

 【一部既報】東京地裁から民事再生手続き廃止決定を受け、破産措置に移ることとなった水産加工販売の太洋産業㈱(本社・東京都中央区、松岡章代表取締役)。創業の地である大船渡市大船渡町に構え、主力生産拠点となっていた大船渡工場では、従業員35人中32人の解雇が14日までに明らかになった。昭和期から水産業界をけん引し、東日本大震災の被災からも立ち上がった「タイサン」の破たんは、地域に波紋を広げている。

 

 同社は昭和19年設立。「タイサン」ブランドのイクラやタラコ、サンマ、サケなどの鮮冷魚、人気商品として広く知られる「鮭フレーク」などの加工販売を手がけてきた。民間の信用調査会社、東京商工リサーチ盛岡支店によると、昭和57年12月期の売上高は330億円余あった。
 創業地の大船渡と北海道の釧路、根室に工場を展開し、生産体制を強化していたが、平成23年3月の東日本大震災で大船渡工場が被災。釧路、根室両工場にラインを移すなどしたが売上高は落ち込んだ。25年3月に大船渡工場は復旧したが、近年のサンマや秋サケの漁獲量減少も影響し、経常利益ベースでは22年3月期から29年3月期まで8期連続の赤字を計上していた。
 経営の行き詰まりから今年7月、東京地裁に民事再生法適用を申請し、手続き開始決定を受けた。負債総額は約49億5000万円。スポンサーからの支援を前提とした再生計画を進めていたが、スポンサー候補との交渉がまとまらず、今月13日付で手続き廃止決定と保全命令を受け、破産措置に移行。
 大船渡から躍進し、長く「水産のまち」をリードしてきた同社の破たんは、地域経済に波紋を広げる。同工場の冷蔵施設を利用していたという㈱産直上野水産(大船渡町)の上野孝行代表取締役社長は、「冷凍品を預かってもらい助かっていた。とても残念だ」と肩を落とした。
 大船渡商工会議所の齊藤俊明会頭は「残念なことであり、震災で大きな被害を受けてなおさら経営が厳しくなったのではないかと思う。完全復興の正念場にある中での暗いニュースであり、非常にショックを受けている。先行きに心配はあるが、めげずに復興へ頑張らなければならない」と語る。
 民事再生申請後も大船渡工場は操業を維持してきたが、手続き廃止決定があった13日、35人中32人の解雇が伝えられたという。解雇者の男女比率は、ほぼ半々とみられる。3人は残務処理などのためとどまる。
 再雇用支援に向け、大船渡公共職業安定所(三上元詔所長)や市、商工会議所などが連携して情報収集や協議を進めている。
 職安では、解雇者向けの雇用保険受給手続きなどに関する説明会を19日(月)に開く予定。三上所長は「速やかに手続きがとれるよう進めたい」と話す。
 気仙地区は震災以降の人手不足傾向が依然として続いており、今年9月の有効求人倍率は1・73倍と高い。同所長は「従業員の方々は熟練工が多く、意欲があれば引く手はあると思う。そうした面も含めてケアしていきたい」としている。
 市では髙泰久副市長を中心として担当課間で情報共有を図っている。同社に対しては被災後、国の交付金による水産業共同利用施設復興整備事業として、加工処理施設、冷蔵施設、ライン加工場の整備費用を補助。総額は約10億6000万円となっており、今後、税や水道料などと合わせて管財人へ申請する方針。