検証ー激戦の大船渡市長選㊦
平成30年11月29日付 1面
組織強化も「刷新」届かず
藤原陣営、越えられなかった〝壁〟
3選を果たした無所属の現職・戸田公明氏(69)に1022票差で涙をのんだ、元参議院議員で無所属の藤原良信氏(67)。平成32年度末に予定される復興庁や国の復興財源の廃止を見据え、今後の経済振興、激しさを増す地域間競争への対応には市政の「刷新」が必要として出馬した。
選挙戦に臨むのは、5年前の参院選以来。選挙経験は豊富だが、県議選、参院選を通じ、定数1を巡る一騎打ちの選挙戦は今回が初となった。
後援会(宮澤信平会長)では、出馬表明をした2月から後援会組織の再構築を本格化。市内に19支部を設置した。
企業まわりも積極的に行い、藤原氏を推薦する事業所からなる企業連合会も組織。推薦事業所は約300社にものぼり、中には応援演説に立つトップの姿もあった。
「無所属で臨む」として、政党への推薦要請は行わなかったが、自民党大船渡市支部と同党県日本財務振興支部が支援。市議は半数を超える11人が支持にまわった。
各支部、企業連合会による組織力を生かし、前哨戦、選挙戦を展開。10月の決起集会には約1300人、11月の事務所開きには約370人、告示日の第一声には約500人が集まり、いずれも戸田陣営を上回っていた。
だが、選挙戦序盤、藤原氏や陣営関係者からは「現職は名前も売れ、非常に先行している」「まだ一歩遅れている」といった声が聞かれ、〝追う立場〟との認識があった。
市長選は、県議選や国政選挙よりも政党、団体を超えた広がり、浮動層の獲得が求められる。組織を構築していく一方で、浮動層の取り込みには不安もあった。
演説では、戸田市政を「待ちの政治」「国や県との連携が不十分」などと批判。大船渡と内陸部を結ぶ高規格路線の着工、総合運動場等の整備、防災計画の見直しなどを政策に掲げ、その実現に自身の経験や人脈を生かすと訴えた。
これまでの政治経験を知る中高年男性を中心に支持を集め、現職批判票の着実な取り込み、前回選で戸田氏を支持した層の切り崩しを図った。組織力を生かした新たな支持層の開拓も進めた。
追い上げに向け、活動に一層の勢いがみられるようになった中盤戦。藤原氏の演説からは「(相手に)肩を並べた」との発言もあった。終盤には相手陣営が危機感を抱くほどとなり、陣営では手応えも感じつつあった。
しかし、ふたを開けてみれば〝現職の壁〟は厚く、1000票余りの差で敗れた。藤原氏は支持者らへのあいさつで、「確かな手応えを感じていたが、これは審判。厳粛に受け止め、皆さまからいただいた応援、意見を改めて別の形で生かしていければ」と述べた。
総括責任者を務めた宮澤会長は、73・91%の投票率にも触れ、「投票率が高ければ、こちらにも勢いがあると思ったが…やはり、現職の壁は厚い。投票直前は手応えも感じていたのだが…」と語った。
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開票結果をみると、藤原氏の得票数は1万1052票。過去の選挙戦で戸田氏が勝利した相手候補としては、得票率47・8%は最も高く、票差も1000票台にまで縮めた。激しい競り合いの選挙戦は有権者の関心を高め、投票率の上昇にもつながった。
藤原氏の長年にわたる政治家としての手腕、掲げた政策に対し、有権者からは少なからぬ評価があった。市政に閉塞感を抱き、将来への不安を感じた有権者が寄せる「刷新」への期待の大きさが表れたとも言い換えられる。
昭和27年以降に行われた19回の市長選のうち、今回も含めて現職と新人の一騎打ちは8回。このうち、新人が勝利したのは、平成6年(第13回)の甘竹勝郎氏のみ。過去を振り返っても〝現職の壁〟が浮かび上がる。
藤原氏は今回、1万1000票余りを獲得したが、惜しくも涙をのんだ。1022票差は、市長選における現職と新人の一騎打ちでは、最も少ない差だった。藤原氏は激戦を繰り広げたが、当選を勝ち取ることはできなかった。
〝1000年に1度の災害からの復興〟という前人未到の取り組みに、2期8年にわたって臨んできた戸田市政。あと一歩届くところにまで迫った藤原氏への支持は、これまでの復興のあり方や将来展望への「異議」の表れともいえ、今後の市政に厳しい検証の目が向けられそうだ。
藤原氏は今後について、「議員や首長になることだけが、政治活動ではない。いままでのお付き合いの範囲の中で、地域のことを手伝っていきたい」と述べた。
敗れはしたものの、選挙戦では改めて政治的な影響力の大きさも示した。今後に控える県議選などへ、どのように関わっていくのかも注目されそうだ。