ユネスコ無形文化遺産に登録決定、吉浜のスネカなど来訪神行事/大船渡

▲ ユネスコ無形文化遺産への正式登録が決まった「吉浜のスネカ」

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の第13回政府間委員会は日本時間の29日午後、国が「来訪神:仮面・仮装の神々」として提案していた、大船渡市三陸町吉浜の「吉浜のスネカ」など全国8県10件の伝統行事を無形文化遺産に登録すると決定した。無形文化遺産への登録は、気仙では初めて。地元関係者らは正式登録に感謝の思いを示すとともに、次世代への継承に向けて決意を新たにしている。

 

気仙で初めて、関係者ら継承への決意新たに

 

 政府間委員会は、無形文化遺産保護条約の締約国から選出された24カ国からなる。各国が提案した遺産候補に対し、ユネスコの評価機関による事前審査の結果を踏まえて登録の可否を決める。
 会議はモーリシャス共和国の首都・ポートルイスで26日に開幕。12月1日(土)までの日程で予定されており、各国から提出された41件の新規登録について審査を行う。
 「来訪神:仮面・仮装の神々」は、仮面・仮装の異形の姿をした者が「来訪神」として、正月や季節の節目に家々を訪れ、子ども、怠け者を戒めたり、人々に幸や福をもたらしたりする行事。行事は世代から世代へと受け継がれ、地域の結びつき、世代を超えた人々との対話と交流が深められている。
 国は平成28年、国指定重要無形民俗文化財である、吉浜のスネカ、甑島(こしきじま)のトシドン(鹿児島県薩摩川内市、21年無形文化遺産登録)、男鹿のナマハゲ(秋田県男鹿市、23年無形文化遺産「情報照会」)、能登のアマメハギ(石川県輪島市、能登町)、宮古島のパーントゥ(沖縄県宮古島市)、遊佐の小正月行事(山形県遊佐町)、米川の水かぶり(宮城県登米市)、見島のカセドリ(佐賀県佐賀市)の8件を、無形文化遺産への登録に向けてユネスコ事務局に提案。しかし、同年の審査は世界各国からの提案件数が上限を超えたため、1年繰り延べとなった。
 29年には、国が新たに国指定重要無形民俗文化財に指定した薩摩硫黄島のメンドン(鹿児島県三島村)と、悪石島のボゼ(同十島村)を加え、計10件のグループとして再提案。先月開かれたユネスコ無形文化遺産保護条約政府間委員会の評価機関による事前審査では、無形文化遺産への登録にあたる「記載」の勧告を受けていた。
 これを受け、今回の政府間委員会で登録の可否を判断。無形文化遺産代表一覧表への「記載」が決まり、正式登録されることとなった。
 吉浜のスネカは、吉浜地域に江戸時代から伝わる小正月の伝統行事で、16年には国の重要無形民俗文化財に指定。子どもの健やかな成長、五穀豊穣や豊漁を祈願するもので、現在は吉浜スネカ保存会(柏﨑久喜会長)を中心に、地元の中学生も参加しながら伝承活動に取り組んでいる。
 わらみのやアワビの殻を身にまとい、鬼とも獣ともつかない恐ろしい形相の面をかぶったスネカが家々を訪問。「泣くワラシいねえがー」などと大声を出しながら、各家の子どもや怠け者をいさめる。
 その存在は、「奇怪なもの」「えたいの知れないもの」とされる一方、里に春を告げ、五穀豊穣や豊漁をもたらす精霊ともいわれる。スネカの名称は、冬の間、仕事をせずにいろりのそばに居続けたため、赤いまだら模様の斑点ができた怠け者のすねの皮を剥ぐという「スネカワタグリ」が語源とされている。
 無形文化遺産への登録は、県内では花巻市大迫町の「早池峰神楽」に続く2件目。気仙では、初めての無形文化遺産となった。
 登録を受け、達増拓也知事は「登録の決定は大変喜ばしい。今後も、地域が一体となって、保存・伝承に向けた取り組みを継続していくとともに、地元の意向に沿いながら、岩手の歴史・文化の魅力を広く発信していきたい」と喜びの声を寄せた。
 戸田公明市長は「登録を大変うれしく思う。吉浜のスネカが人類の創造性と文化の多様性を代表する無形文化遺産の一つとして選ばれたのは、とても栄誉あること。これからも、吉浜地区の方々と協力しながら、保護と継承に努めていきたい」と語った。
 柏崎会長は「恐ろしい形相の『スネカ』を家に受け入れ、〝幼子が強く健やかに育つことを願う〟という子どもを中心とした年に1度の風習。このときは、吉浜中の子どもからお年寄りまでの〝思いが一つになる瞬間〟」として、吉浜のスネカを編み出した先人やこれまで伝統を支え続けた地域住民、関係者らに感謝。
 「今後も本来の形を守り、後世に伝えていくことが大切。国内外の皆さまにおかれては、このことを理解のうえ、温かく見守り続けてほしい」とコメントした。
 無形文化遺産への登録を受け、30日には東京で各行事の関係者らによる記念記者会見などを予定。大船渡市からは戸田市長と保存会メンバー2人が出席する。