水俣の実践に学ぶ、「茶」を通じ住民が交流/陸前高田
平成30年12月5日付 7面

陸前高田市高田町の市コミュニティホールで2日、「陸前高田の明日に向けて、水俣の歩みに学ぶ」と題した住民交流会が開かれた。茶の生産が盛んな水俣市で製茶園「桜野園」を営む松本和也さん(50)と、水俣病の両親と祖父母を持ち、水俣病資料館の語り部として活動する漁業者の杉本肇さん(57)がそれぞれ講話。公害による直接の被害と風評被害から立ち上がり、世界に知られる環境都市となった水俣の取り組みについて来場者が学んだほか、茶を通じた地域づくりの話題でも盛り上がった。
苦境からの再生考える、気仙茶の可能性も模索
交流会は陸前高田市を支援する任意団体「チームとも・いき」(西田邦昭代表)が主催。とも・いきは、長い年月をかけて「命の尊さ」に根差したまちづくりを実践してきた水俣市や山形県高畠町の人々と、大震災で多くの命が失われた陸前高田をつなぐことで、「ともに学び、ともに生きる」関係を築いてほしいと、そのサポートを昨年度から展開している。
水俣市と陸前高田市は大震災前にも市民レベルで行き来があったが、震災後は今年6月に同団体の橋渡しで初めて交流会を実施。陸前高田では「生産の北限」とされる気仙茶の茶園が各地に残されていることから、催しには茶を通じた地域おこしなどの知恵を共有する狙いもある。
この日は、水俣市による環境モデル都市づくりの一環である「環境マイスター」にも認定されている松本さんと杉本さんが講話。
このうち松本さんは、化学肥料や農薬を一切使わない茶栽培を推進し、現在は英国ロンドンの有名紅茶店「ポストカードティーズ」をはじめ、海外でも紅茶を販売。公害病によって苦しめられた水俣のまちから、世界に「安心・安全」なお茶を発信していることや、自然と人の暮らしとのつながりについて語った。
松本さんは、水俣市在住で「地元学ネットワーク」を主宰する吉本哲郎氏の「『ないものねだり』ではなく、『あるもの探し』」という考え方にも触れ、「地元のいいところをたくさん見つけることが大事」と述べた。
杉本さんは、漁師の網本であった家族が、病気に対する無理解によってさらされてきたいわれなき差別、公害の原因をつくった会社との訴訟をきっかけに受けた嫌がらせといった壮絶な経験、環境汚染による水俣病が地域にもたらした不和についても淡々と言及しながら、それでも明るく温かった家庭のことを振り返った。
家族で漁を再開するため、30年近く前に東京から水俣へUターンしたという杉本さんは、一度は漁業を断念せざるを得なかった家族が海で生き生きとした姿を取り戻したこと、母・栄子さんの「笑わんばだめぞ(笑わなきゃいけない)」という言葉も紹介。杉本さんは実弟といとこの3人でコミックバンド「やうちブラザーズ」としても活動しており、平成15年に水俣が土砂災害で大きな被害を受けた時も、家族を亡くした人々の〝心の復興〟に笑いが不可欠だったことを振り返った。
さらに、「語り部」の存在の重要性にも言及。「東日本大震災から8年近くがたつが、次々と震災を知らない子どもたちが生まれてくる。同じ過ちを繰り返さないため、子どもたちに語り伝えていくことが大事。そういう仕組みを立ち上げてほしい」と訴えた。
講話のあとは来場者とゲストが語らう「茶話会」も開催。陸前高田市の「北限の茶を守る気仙茶の会」も協力して松本さんがお茶を振る舞い、まちづくりなどについて意見交換した。
同日は希望者を対象に、紅茶づくりや刈りはらった茶の枝を利用した木工品づくりのワークショップも行われ、参加者は茶がさまざまな可能性を秘めていることについて理解を深めていた。