「社会的実践力」目指し、住田町の地域創造学

▲ 学校近くを流れる気仙川に入り、探究心を高めた有住小児童

プラン発表会で招かれた住民や町関係者にアドバイスを求める世田米中生徒

 文部科学省から研究開発学校の指定を受け、住田町内各小中高校で実践されている新設教科「地域創造学」が目指すものは何か。さまざまな授業の形には、遠く離れていても古里を強く思う心の醸成や、古里に貢献したいと思い続ける人材、中山間地を担うリーダーの養成への期待が込められている。これまでの教育成果や資源を生かしつつ、小さな町だからこそできる連携と一体感を生かすことが、さらなる充実につながる。

 

 

特色ある展開に磨きを/狙いは

 

小学校低学年の時間割には「そうぞう」の文字も

 研究開発学校は、教育実践の中で浮上する課題に対応し、新しい教育課程(カリキュラム)や指導方法を開発するため、学習指導要領など国の基準によらない教育課程の編成・実施を認める制度。住田町ではもちろん、県内の小・中・高連携型の認定は初となる。
 先月20日現在、住田町では町立の世田米小、有住小、世田米中、有住中、県立住田高校の計5校に383人が通う。また、世田米保育園と有住保育園には計115人が在籍しており、町は、幼保一元化の取り組みの中で、就学前教育に力を入れてきた。
 これまでも同町では、地域資源を生かした独自教育が展開されてきた。平成15年度以降、幼児から高齢者まで各年代に対応した「森林環境教育」を実践。さらに「国際社会の中の日本人としての自覚を持ち、主体的に生きていく人間の育成」を目指し、保育園や小中学校の国際理解活動の充実も図っている。
 少子高齢化の進行や産業分野の担い手不足など、地域課題を抱える住田町。一方でそれらは、国内中山間地共通の悩みでもある。
 研究開発学校の指定により、これまではぐくんできた住田型教育に磨きをかけ、地域全体の活性化にもつながる「社会的実践力」の成長を目指し、全国でも生かされるモデル確立を見据える。
 目指すのは「自立して生き抜く力を身につけ、他者と協働してより豊かな人生や地域づくりを主体的に創造することができる人材の育成」。未来を切り拓くチャレンジとして、新設教科「地域創造学」の展開がある。


地域力生かして効果的に/成果は

 

五葉地区の住民を講師として、火縄銃鉄砲隊の歴史を学ぶ世田米小児童

 指定1年目の昨年度、各校で「地域創造学で育成すべき資質・能力は何か」を検討。本年度は、実際に児童・生徒が授業実践を重ねながら、効果的な学びのあり方を探った。
 授業では道徳、総合的な学習の時間を見直すなどして、小学校では年間90〜110時間、中学校では同62〜82時間、高校では総合的な学習の時間を活用してそれぞれ多様な学びの機会を確保した。
 例えば、有住小学校(都澤宏典校長、児童61人)の4年生は、地域創造学のテーマを「すごいぞ!住田」と掲げ、学校近くを流れる身近な気仙川に焦点を当てて学習。水質調査などを通じて川水に親しみ、環境への関心や探究心を高めた。
 世田米中学校(佐藤智一校長、生徒63人)では、「住田の○○を生かして町の魅力を高める方法を考え、実践して地元で暮らす喜びや楽しさを味わう」とのゴール像を掲げ、多彩な取り組みを実践。昨年4月の授業参観を皮切りに、地域住民の生の声を聞きながら地域創造プランをまとめ、実現を目指してきた。
 この間、各分野に詳しい地域住民や団体関係者を招き、住田の自然資源や文化・産業を活用したプランを披露する発表会を開催。寄せられた意見を生かして工夫を重ね活動の成果をまとめ、その内容をもとに意見を求める場も設けた。
 新たな取り組みを模索するだけでなく、これまでの住田型教育が重視してきた体験活動も充実。有住中学校(三浦政勝校長、生徒53人)では、同校モデル学校林内で毎年実施している森林環境学習を継続し、2年生が間伐作業に挑戦。森林の急斜面でノコギリを手にし、地域を支える産業の奥深さを学んだ。
 世田米小学校(佐々木英雄校長、児童119人)の1、2年生も、毎年実施している森林体験学習として種山を訪れ、すみた森の案内人の会メンバーらの案内を受けながら散策。1年生は拾い集めた木の実を生かし、地域の祖父母世代と一緒に楽しめるおもちゃづくりに取り組んだ。

地域文化選択講座では、住田高生と町内の有住中生が一緒に風土や先人の知恵にふれた

 県立住田高校(鈴木広樹校長、生徒87人)では、地域創造学の活動として地域文化選択講座が組み込まれ、町内の中学生とともに住田が誇る自然や文化、郷土料理、伝統技術などに理解を深めた。さらに、インターンシップや企業訪問など、自らの目標実現や進路につながる時間としても生かされた。
 このほかにも、明治〜大正期に製鉄が営まれた栗木鉄山を学び、たたら製鉄に取り組むなど、地域の歴史や自然資源を生かした学びを実践。地域住民も講師として積極的に迎え入れ、探究的な学習活動を進めた。


〝町一丸〟の環境づくりを/今後は


 実践を進める中で、小学校〜高校の12年間における発達を、5ステージに分けて設定。第1ステージには保育園年長児も組み入れて、幼児期からの円滑な流れも見据えている。
 各校で特色あふれる取り組みを進めてきた中、地域創造学で得た成果を進学先でどう生かすかなど、校種間の連携が重要になる。また、地域住民の参画意識の高まりも、充実には欠かせない。
 地域創造学では、自らの学びの達成を味わうだけでなく、取り組みの成果が地域活性化や課題解決につながる流れにも重点が置かれている。自分たちが暮らす地域をより身近に感じ、そこで「役に立つ」ための取り組みを考え、実践してきた。
 児童生徒は今、新時代を切り拓くために必要な資質や能力、心の豊かさを大きく伸ばそうとしている。無限の可能性を後押しするために、各学校や住民、民間団体、行政が密接にかかわり合う〝オール住田〟の体制充実が今後のカギとなる。