地域盛り立てる活動たたえ、2月16日に陸前高田で顕彰式/第44回東海社会文化賞

古里の〝宝〟いつくしみ

 福祉や文化、教育、産業といった分野で地道な活動を続けている人々を顕彰する第44回東海社会文化賞(東海社会文化事業基金主催)の受賞者が決定した。今回の受賞者は、篤信と郷土愛を胸に、地元を盛り立てるためのそばづくり活動を約20年にわたって続ける陸前高田市矢作町馬越地区の女性有志と、種山ヶ原など、豊かな森林に生息する動物や昆虫、美しい草花の魅力などを広く伝え続ける住田町の自然ガイド「すみた森の案内人の会」の2団体。受賞者数は今回で72個人50団体となる。顕彰式は、2月16日(土)午後0時30分から陸前高田市高田町のキャピタルホテル1000で開かれる。

 

小さな集落から真心を発信、閑董院の縁日でそば振る舞う/馬越地区女性有志(陸前高田市)

 

 馬越地区にある市指定有形文化財・閑董院宥健尊師堂。円城寺(榊原貴晶住職)の奥院であり、同寺を開基した宥健をまつる。
 尊師堂では毎年、宥健が没した旧暦の3月21日と、1月、7月の21日をそれぞれ「縁日」とし、お堂の扉を開放。この時、手打ちそばで参拝客をもてなすのが馬越地区の女性たちだ。
 宥健は元和5年(1619)から地域にはびこった疫病を、馬越の洞窟にこもり即身成仏することで鎮めたと伝わる真言宗の僧。地元では「閑董院さま」と慕われ、今もあつい信仰を集める。最も盛大に行われる旧暦3月21日の「春縁日」には、かつて気仙各地のみならず宮城県からも参拝客があり、昭和中期ごろまでは一日あたり数千人の人出でにぎわったという。
 馬越では参拝者を精いっぱいもてなそうと、昭和時代からうどんなどを用意。もともと小さな集落であるうえ、少子高齢化に伴い、地区内でも次第に休耕田が目立つようになったが、20年ほど前に国の中山間総合整備事業を活用してソバ畑を整備し、縁日で手打ちそばを出すようになった。
 現在は、菊池もと子さん(81)、佐々木いわ子さん(77)、菅野惠子さん(67)、菅野郁代さん(64)が、年3回の縁日前に約120人前のそばを打つ。普段はデイサービスなどを利用している90歳の菊池典子さんが手伝いに来ることもある。
 そばの打ち方は「昔、家でこんなふうに作っていたっけな」と思い出しながらの〝自己流〟。しかし、お堂の由来を知る人が減り、地元からの参拝者も少なくなった中にあって、「このそばが食べたくて」とお参りに来る人もいるほどだ。
 そばの味以上に親しまれているのは、女性たちをはじめ、馬越地区住民の温かさ。7世帯という小さな集落ながら、縁日前の草刈りや道路掃除、雪かきなどを率先して行うのは、「訪れた人が気持ちよくお参りできるように」「馬越はいいところだと思ってもらえるように」という思いから。
 「だれかに頼まれてすることじゃない。地区の皆をいつも守ってくださっている閑董院さまへの感謝と、来てくれる人たちをもてなしたいという気持ちだけ」ともと子さんはいう。
 今年の春縁日は、宥健入定から数えて「四百年祭」にあたる。女性たちが〝小さな地区の大きなおまつり〟と大切にしてきた縁日。「大きな節目の今年、さらに盛り立てていきたい」と意気込みを新たにする。


自然体験を支えながら交流、種山の魅力伝える/すみた森の案内人の会(住田町)

 

 宮沢賢治がこよなく愛した種山ヶ原に、子どもたちの歓声が響く。草木にふれ、地面に寝転び、さわやかな空気を存分に吸い込みながら〝下界〟では味わえない心地良さを満喫する。すみた森の案内人の会は、幅広い年代が自然に親しむ体験を支えてきた。
 町は環境省の「環境と経済の好循環のまちモデル事業」の指定を受け、平成16年度から森の案内人講座をスタート。立ち上げには、町に出向していた林野庁職員らが尽力した。
 講座は、種山で自然を楽しむ受け入れ体制づくりや、子どもたちの健全育成を担うガイド養成が狙いだった。修了者は翌年からボランティア活動を重ね、案内人の会として19年に正式に発足した。
 会員は基本的に、種山を舞台に毎年10回程度行われる「目指せ!森の達人(マイスター)講座」の受講生で組織。気仙3市町や奥州市、釜石市在住の23人で構成し、年齢も30~80代と幅広い。
 町内の保育園年長児らは毎年、町教委による森の保育園事業の一環で、季節ごとに種山を訪れる。案内役の会員たちは、森林の魅力や働きに理解を深める活動を支える。
 色鮮やかに花を咲かせる植物の種類や、食べられる木の実かどうかなどを分かりやすく伝えながら、子どもたちの〝気づき〟を引き出す。
 吉田洋一会長(68)は「今は山に行かなくても、自然に関するさまざまなことを学ぶことができる。でも、実際に山に行けば、感じ方はそれぞれ異なる。体験することで、個々の能力が磨かれ、人間が本来持つべき力がはぐくまれるのでは」と語る。
 東日本大震災以降、外で存分に遊べる場を求め、陸前高田市内の保育園児らが森の保育園事業を体験するために種山を訪れる。豊かな自然を舞台に学ばせたいと、大船渡市内の園児も定期的に通う。会員が寄り添うことで、子どもたちの体験に奥深さが生まれ、好奇心が養われる。
 一般世代を中心とした散策会でも、吉田会長は「五感を磨こう」と呼びかける。楽しみながら、リフレッシュしながら自然にふれる機会を支え、参加者と心を通わせてきた。
 吉田会長は、「人口が減っていく時代であり、積極的に外部とのつながりを持ちながら、人間として広い心を養っていきたい」と、種山を通じた人々の交流拡大に期待を寄せる。