アオノリ陸上養殖スタートへ、広田・根岬で新年度から/陸前高田

▲ 陸上養殖が計画されている根岬漁港(集側)

高知の事業所が生産
障害者雇用も計画

 

 陸前高田市で新年度から、陸上における養殖漁業が実施される見通しとなった。高知県の合同会社が同市広田町に施設を整備し、平成31年度の早い段階でアオノリ養殖をスタートさせる。市はこの事業を足掛かりとし、新しい産業モデルの構築を検討。今後は広田湾漁業協同組合や岩手大学などの協力を得ながら、ほかの海産物についても取り組みを拡大していく考えだ。また、生産施設では障害者雇用を積極的に進める計画といい、障害者の就労環境の向上に寄与する事業所としても期待される。

 同市で初となる陸上養殖に名乗りを上げたのは、高知県室戸市に本社を置く合同会社シーベジタブル(蜂谷潤、友廣裕一共同代表)。広田町根岬漁港(集側)の市有地およそ2000平方㍍を借り、新年度以降、アオノリの生産を始める計画が進められている。
 同社は平成21年から、室戸市で取水される海洋深層水を使ったアワビと海藻の複合養殖研究を始め、28年には世界初となる地下海水を利用した海藻陸上養殖モデルを確立。現在、同県安芸市にも生産場を置く。
 陸前高田市とは23年の東日本大震災発生以前から同市の㈱長谷川建設(長谷川順一社長)を通じてつながりがあったといい、友廣共同代表は震災後、一般社団法人・つむぎや代表としても陸前高田での支援活動を展開。同社は被災した海沿いの土地の利活用や、生産拡大、新しい養殖漁業のあり方として、かねて同市での事業を提案していたという。
 同市では大正時代後期から小友町内でノリ養殖が行われ、広田湾奥を中心に隆盛を極めた。しかし昭和40年代に至り、海中状況の変化による病害と不作、価格低迷によって急速に衰退。ノリ養殖が消滅した経緯がある。
 一方、同社は海から地中を浸透し湧き出す「地下海水」について「清浄で、年中水温が安定しているため、色濃く風味豊かな海藻を通年育てることができる」とする。さらに、障害がある人を従業員として採用し、だれでも生き生きと働ける環境を創出したいとしている。
 長谷川社長(38)は「障害者雇用に力を入れてくれるというのが大きい。すでにシーベジタブルが販路を持っている中での事業なので、採算性も高く、就労者の賃金アップにつなげられるのでは」と語り、イワノリなど地域性に合った海藻類の生産にも結び付いてほしいと期待を寄せる。
 また、本県沿岸部では昨年から長期間にわたってまひ性貝毒による貝類の出荷規制が続き、養殖漁家に大打撃を与えている。昨年7月には米崎町のグローバルキャンパスで海洋シンポジウムが開催され、岩手大三陸水産研究センター、東北大、国立研究開発法人水産研究・教育機構の研究者や、地元生産者らが一堂に会した際にも、陸上養殖について話題となっていた。
 これを受け、岩手大学からも同市に対してサケといった魚類の陸上養殖の研究と実践について申し出があったといい、市は広田湾漁協と協議のうえ、米崎町の沼田地内などを候補地として事業展開を検討。本年度は同地内の地下海水調査を実施するという。 
 市農林水産部の菅野泰浩水産課長は、「漁協側もこうした申し出を好意的に受け止めてくれている。多角的な養殖に取り組むことで生産者のリスクも分散されるし、売り上げアップにもつながっていけば」としている。